―――――――何が、起こったんだ………?―――――――


朦朧とした意識の中、鬼となり、ヒトを捨てたハズの剣士が呟いた。


心を喰われ、精神を犯され、魂までも狂気に捧げたハズの、剣士が。


――――――――俺は…なのはに……――――――――


そう、妹分であった少女の攻撃により、塵一つ残さず消滅したハズ。


最後の最後で、鬼が消えて…自分が、顔を出せた。


言いたい事はたくさんあった、ありがとう、すまなかった、そんな言葉。


だけどどれ一つとして言葉にならず、なる時間もなく、ただ、思った言葉を口にした。


満足とは言えない、だが、どこか安堵したのは本当だった。


2年に満たない復讐の人生。


しかし、その年月は果てしなく長く感じ、あの少女達と過ごした日々は擦り切れ、過去の記憶と化している。


剣士は、疲れ切っていた。


探しても探しても見つからない復讐相手。


憎しみと怒りで殺してしまった、人々。


そして、そんな自分の為に涙を流し、叫び続けた家族達…。


剣士の心は既に限界で、けれど止める事は出来なくて…。


故に鬼に喰わせて、後を任せた。


弱くてちっぽけな自分は、鬼の腹の中で、絶望の眠りにつけば良い。


逃げだった。


アリサが居ない世界に絶望し、『  』が居ない世界に狂気し…。


剣士は、己の中の鬼に全てを任せ、逃げてしまった。


復讐からも、生きる事からも。


狂った心の片隅で、剣士は悟ってしまっていた。


この道に先に救いはなく、消えた少女達の望みもない。


絶望しかないその道の先。


けれど止まれなかったのは、それを認めたくなかった自分の弱さ。


剣士は認めた。


全ては、自分の愚かさ故に。


故に、アリサのみならず、『  』まで犠牲にした。


最後まで、狂気に走る自分を止めようとしてくれた、純粋なる少女を…。


―――――やっと気付いたですか、リョウスケ―――――


己の傍らに居て、ある時を境に消えてしまった少女…。


その姿を思い出した時、剣士の頭の中で、懐かしい少女の声が響いた。


―――――ミ……ヤ………? ミヤ……なのか…?―――――


呆然と、呟くように口を動かすと、嬉しそうな少女の声が響く。


―――――やっとミヤの声を聞いてくれたですね、リョウスケ―――――


その声の主は、剣士が復讐を始めた時から、消えるまで、ずっと傍らにいた小さな妖精。


狂気に狂う剣士を、必死に止めようとしていた、空色の少女。


度重なる強制融合と強制アクセスにより、心が壊れ、人形にしてしまった少女。


それでも、消えてしまう瞬間まで、傍らに居続け、共に居ることを望んでくれた少女。


―――――お前…どうして…お前はあの時、俺が……―――――


―――――そうです、ミヤはリョウスケの一部になりました。だから、ココにいるですよ?―――――


あの時、ミヤが突然消え始めた時。


何が起きたのか、何があったのか分からなかった。


ただ、ミヤの存在が、何かに吸収されるように消え始めていた。


本体に何かがあったか、それとも存在に何かが生じたのか…。


消え始めた少女に、既に狂っていた剣士は、無感動に見送ろうとしていた。


その心の隅で、ごめんな、今までありがとうと呟いて。


しかし、少女は剣士の傍に居ることを望んだ。


言葉を話せなくなった口から、あー、うー、と赤ん坊のように声を上げながら、剣士との融合を望んだ。


胸に縋りつき、グリグリと剣士の中へと入ろうとする少女に、剣士は顔を歪め、血塗れの手で抱き締めた。


『分かったよミヤ…ずっと一緒だ。ずっとずっと、死ぬまで…俺達は一つだ……』


剣士の、その言葉に、壊れた少女は、微かに笑みを浮かべ…剣士と一つになった。


存在が消えかけていた少女との融合は、剣士が少女を吸収する形で行われ…。


結果、少女は完全に剣士に融合し、混ざり合った。


二度と離れることはなく、二度と話す事は出来ない。


剣士の一部となった少女は、その力の一部を残したまま、消えてしまった。


消えてしまった、ハズだった。


―――――ミヤはずっとここにいたです、リョウスケの中に。でも、リョウスケはミヤの言葉を聞いてくれなかったです。
何度も何度も呼びかけても、ミヤの声より――――あの怖いヒトの声を聞いていたです―――――


ミヤの言う怖いヒトとは、剣士が生み出した心の鬼だろう。


ミヤが消えてから剣士は、ただ心の鬼の声が導くままに復讐を続けた。


―――――全く、本当に貴方はミヤが居ないと何にもできないんですから。本当に駄目なアナザーマスターです―――――


―――――……そう、だな…本当に俺は、駄目な奴だな……―――――


復讐も果たせず、家族だった少女達を傷つけ、悲しませる。


それでも、それでも、アリサを望む心は止まれず、アリサを求める願いは終わらない。


人であるが故に、止まれなかった、その渇望。


―――――最後の最後で怖い人からリョウスケを取り戻せましたけど、全部は無理でした…ごめんなさいです―――――


―――――取り戻せた……?―――――


ミヤの言葉を聞いて、ふと気付く。


自分が、普通の意識を保っていられる事に。


鬼に喰われた時から、既に理性は無く、物事も単純な事しか考えられなくなったというのに。


もう二度と人には戻れないと理解していたのに。


戻っていた。あの頃の…いや、あの頃と、狂気で狂った時の、狭間のような自分に、なっていた。


―――――ミヤの最後の力で、リョウスケの意識を取り返したです。おかげで、もうミヤはここに居られませんですけど……―――――


―――――どういうことだ、ミヤ!?―――――


―――――本当のお別れです、リョウスケ。本当はもっと言いたい事とか、あったんですけど…もういいです―――――


―――――もういいって、お前…―――――


―――――今のリョウスケは、皆の元に戻ることも、復讐を続けることもできないですから。そうですよね、リョウスケ?―――――


何も言えなかった。


ミヤが言う事は確かで、剣士は家族だった少女達の言葉を、今は受け入れてしまっていた。


一度死んだからだろうか、少女達が涙ながらに叫んでいた、復讐相手の死を受け入れてしまった。


それを受け入れる事は、イコール己の生きる意味を無くす事になる。


だから自分の中で否定し続けた。


それを…受け入れてしまった。


もう復讐の道は歩めない。けれど、少女達の元へ戻る事は許されない、許さない。


ならば、もう生きる意味はなく、生きる意志も、もう無くなってしまう。


―――――ダメですよ、リョウスケ―――――


―――――え………―――――


―――――死ぬことは、ミヤが許さないです―――――


ミヤは、剣士が考えたことを、キッパリと却下した。


このまま死ぬなど、許さないと。


―――――別に、罪を背負って生きろとか、罪を償えなんて言いません…リョウスケにできるわけないですから―――――


―――――ミヤ………―――――


言葉は呆れが混じった物だったが、その声は、涙に震えていた。


―――――だから、生きるです。精一杯、どの沼の中、もがいて生きるです。でないと、ミヤが許さないです―――――


―――――生きる……?―――――


―――――生きて、生きて、生き続けて、その結果死んだら…そしたら、少しだけ、許してあげます―――――


それは、小さな少女の、小さな願い。


―――――ミヤは、見っとも無くても、惨めでも、それでも足掻いて生きようとしたリョウスケが好きでした。
だから、生きるですよ、リョウスケ―――――


―――――だけど、俺は、俺はもう……―――――


普通には、生きられない。


その言葉は、言えなかった。


人を殺し、己が復讐の為に他者の命を奪い続けた剣士に、普通の生活はできはしなかった。


きっとまた、人を殺すだろう。


きっとまた、ナニかの拍子に狂うだろう。


最初の、公園での出来事のように。


―――――それでもいいですよ、リョウスケ。それでもいいから…生きるです。
この世界で、アリサさんとミヤが“居ない”世界で、最後まで生きるです―――――


それは、剣士にとって、この上ない地獄――。


死ぬ事よりも辛く、悲しく、怖い事。


それを、小さな少女は望んでいる。


―――――そうか……それが、俺への罰なのか、ミヤ……―――――


―――――そうです、ミヤやアリサさん…マイスター達を悲しませた、貴方への罰です―――――


剣士は笑う。


あぁ、なんて酷く苦しい罰なのかと。


それで今までの罪が消える訳ではない。懺悔にすらならない。


けれど、小さな少女はそれを剣士に科した。


―――――もうミヤは限界です。ここでサヨナラですけど、でも、ミヤはずっと貴方の中にいますからね、
ずっとずっと―――貴方の中で見てるですからね?―――――


―――――ミヤ…待ってくれ、ミヤっ!?―――――


―――――怖い人は、ミヤが連れて行くです。残ったのは、リョウスケがどうにかするです。
ミヤはそこまで面倒見切れません―――――


―――――ミヤっ、俺は、俺は……ッ―――――


―――――死ぬのは許さないですよ、リョウスケ?―――――


―――――ミヤ、ミヤァァァアァァァッ!?―――――








―――――リョウスケ、大嫌いだったけど……大好きでしたよ、アナザーマイマスター……―――――







小さな妖精の、その言葉を最後に、剣士の中から、何かが消えていく。


一つは大きなモノで、もう一つは、小さい、けれど剣士にとって大切だったモノが……。


目覚めた剣士は、“蒼銀色”の左眼を押さえ、涙を流す。


左眼からは透明な涙を、右目からは紅い涙を。


「は…はははははっ、生きろか…俺に、俺に生きろって言うのか、ミヤ…
こんな、こんな世界で、お前たちの居ない世界で、俺に、生きろと…」


剣士は笑う、笑いながら、泣く。


左手はなく、右足も膝から先がない。


全身がボロボロで、けれど確かに生きている。


潰れた左眼は確かにあり、世界を映す。


目覚めたのは、質素なベッドの上。


傷だらけの身体は、誰かが治療したのか包帯だらけ。


窓の外からは光が差し込み、遠くから子供達の声が聞こえる。


古い造りの部屋の中、剣士はただ笑っていた。


生きることに意味を見出せなくなった剣士は、生きなくてはいけなくなった。


「あぁ、ミヤ…最高で最悪な罰だ…本当に、地獄だぜ……畜生、畜生ぉぉ……っ!」


剣士の叫びが木霊する。


その叫びを聞いて、誰かがこの部屋に向かってくる。


それでも剣士は叫び続けた。


己の悲しみと絶望を、その声に乗せて……。





狂気の剣士は、復讐者は、骸となり、生きる屍として、この世界に再び立つことになった。


生きる意味を見出せぬままに……。














〜〜〜〜〜〜〜To a you side 外伝―――狂鬼のリベンジャー〜〜〜〜〜〜〜〜〜


―――――――――――――――― 後編 ――――――――――――――――――


               「屍の剣士」











騎士甲冑を纏い、ヴィータ達の前に降り立つ烈火の将。


同行していた修道女、シャッハはヴィータの傍らに降り立ち、負傷した彼女の治療を手伝う。


良介の放った『蛟竜』は、バリアジャケットや騎士甲冑の貫通効果を持つ、斬爪魔法。


5本の指先から小規模の魔力刃を発生させ、相手を切り裂く力を持つ。


バリアジャケットや騎士甲冑を破られたら、その後は生身。


故に、必殺の能力を持つ魔法。


ヴィータでなければ、首元を裂かれるか、胸を切り裂かれていただろう。


その傷の治療を優先している仲間を尻目に、抜いたレヴァンティンの切っ先を相手に向ける。


向けられた良介は、口元にニヤリと笑みを浮かべ、その手に持つ斬馬刀を鞘から抜き放つ。


鋼色の刀身。


刃の長さはレヴァンティン以上、まさに叩き切る為の刀。


デバイスとしての特徴は持たぬものの、彼方此方の機械的な装飾がシグナムの警戒心をかき鳴らす。


あの時の木刀のように、アレにも何かがあるだろうと、シグナムは踏んでいた。


「まさか、貴様が生きていたとはな…」


「自分でも吃驚さ、あの時死ねれば、ここまで悩まなくても済んだんだが…まぁ関係ないか」


「そうだな……」


シグナムはゆっくりと、レヴァンティンを構える。


良介もまた、斬馬刀を横薙ぎの体勢に構える。


剣士の間に言葉は不要。


語りたければ勝って語る。


ただそれだけだった。


「シグナム副隊長、私たちもっ!」


「下がれっ、こいつの相手、お前たちにはさせられん」


叫んだティアナは何故と問いたかった。


確かに男は強い、あのヴィータを騙し討ち的とは言え、負傷させたのだ。


だが、自分を含め、ギンガ達と連携すれば勝てると踏んでいた。


それは事実だろう、全員でかかれば必ず倒せる。


だが。


「あの男は、その気になればここに居る全員を道連れにすることすら厭わない奴だ」


そう、以前の、あの鬼であれば、自爆すら厭わないだろう。


「何か勘違いしてるようだが、今回俺は、あくまで手伝いだからな? 手伝いで道連れなんてするかよ」


そしてそれを否定したのは、当の本人だった。


これにはシグナムも多少面食らった。


あの狂気に狂っていた剣士が、今は飄々とした風体だからだ。


「変わったな…いや、“戻った”と言った方が良いのか?」


「変わっちゃいねぇよ、ここは、あの頃のままさ」


そう言って、己の頭を親指で示す。


「だが、こっちはまぁ…戻して貰ったんでな」


次に示したのは、己の心臓の位置。


「なるほど…思考は狂っているが、心は戻ったと言いたいのか」


「ま、そうなるかもな…」


二人が今にも切り掛かりそうな雰囲気のまま、ジリジリと間合いを詰めてタイミングを計る。


交わされている会話も、相手の出方を窺う方法の一つ。


そんな中、突然良介が煩わしそうに息をはいて、斬馬刀を下げた。


ソレに対して怪訝な顔をしつつも、警戒を解かないシグナム。


「どうしても邪魔したいみたいだな、雛共」


その言葉にチラリと視線を走らせれば、ギンガ・スバル・ティアナ・エリオの四人が、良介を包囲する形で動いていた。


シグナムが彼女達に何か言う前に、良介が右手を掲げた。


「俺は久しぶりに、シグナムと勝負がしたいんだ。雛は卵の殻とでも、遊んでな」


パチンッ――――親指を鳴らした、その音に反応したのは、地面。


地面を、そしてハイウェイの道路を破壊して現れたのは、3体のガジェットドローン。


それも、ガジェットドローンIII型と呼ばれる巨大な球体タイプ。


「ガジェットっ!?」


「いったい何処からっ!?」


驚くスターズの二人。


地下のガジェットは彼女達が粗方倒し、スキャニングにも先ほどまで、引っ掛からなかった。


なのに突然、3体が同時に出現したのだ。


「適当に遊んどけ、俺の邪魔はするなよ」


良介のその命令に従うかのように、センサーを点滅させたガジェットが、スバル達に襲い掛かる。


「散開してっ!」


ギンガの指示に、その場を飛び退いて散らばる新人達。


未だ動けないヴィータと治療しているシャッハ・キャロには目もくれず、ガジェット達はスバル達を引き離す形で攻撃を始めた。


「やはり、この事件の首謀者と関わりがあるのか、ミヤモト」


「深くもなく、浅くもないがな。借り物だが、これで邪魔は入らないだろ?」


ガジェット3体に苦戦気味の四人に視線を少しだけ向けつつも、レヴァンティンを構える。


良介も斬馬刀を振り被り、シグナムを睨む。


「行くぞ、ミヤモト!」


「来いよ、剣の騎士!」


互いに飛び出し、己が相棒を走らせる。


空中で切り結び、火花を散らすレヴァンティンと斬馬刀。


数撃の打ち合いの後距離を取り、また打ち合う。


高速接近戦闘を得意とするシグナムに対し、良介は一歩も引かない素早さを見せる。


時折、地面を砕くほどの脚力で接近し、シグナムの剣戟を弾いている光景は、見守るヴィータには異質に見えた。


以前の、鬼となった良介は確かに強かったが、それは死や痛みを無視して戦えたからこそ。


今の良介もそうかもしれないが、それ以上に強靭となっている肉体能力に疑問が浮かんだ。


彼の魔力は低く、以前であってもバリアジャケットすら生成できなかったほど。


鮮血魔法は、血を媒介に使用する、所謂爆弾的な魔法であり、血中魔力を爆薬に起動しているモノだ。


それに関しても、威力や効果を上げれば何かしらが下がる弱点が存在する。


良介が使った『蛟竜』にしても、対象に接触しなければ効果がないというデメリットを持っているのだから。


魔法の素質も底辺だった男が、何故一級の騎士であるシグナムと対等に渡り合えるのか、それが疑問だった。


その時、ヴィータの視線は、良介の一房だけ空色をした髪の毛と、左眼に注目した。


まさか――――その考えは、実際に切り結ぶシグナムも考えていたことだった。


「その瞳、そしてその髪…あの欠片を己の一部としたのか!」


「そうさ、アイツを…ミヤを俺の中に取り込んだ。あの瞬間まで融合状態だったが、今はこれしか残っちゃいねぇがなッ!」


シグナムを弾き飛ばし、左手で左眼を押さえる良介。


「アイツがな、残してくれたんだよ、この眼と力をな」


そう言って刀を握る右腕が軋む。


それは、肉体強化を行った故に発生する、筋肉の軋み。


「なるほど、限界ギリギリの肉体強化か…」


「お前たちみたいに、アレコレできるほど魔力がないんでな。これだけに限定してる」


故に、バリアジャケットもフィールド魔法も纏わない。


己の肉体のみを強化し、戦う。


そして、それを可能にしているのは…小さな妖精が残した、融合騎としての性質。


魔法を使用する際に要する感覚や神経が、ミヤを取り込んだことで変質し、強化された結果。


今の良介は、半デバイスと言って良いほど、魔法使用に適した肉体となっていた。


最も、本人の魔力が少ないが為、ろくに魔法が使えないのだが。


「まぁ俺も、こっちの方が性に合ってるんだが……どうしても邪魔したいらしいな、ガキ」


良介の、その言葉と睨んだ方向をシグナムが追うと、そこにはガジェットをスバルに任せてクロスファイヤーを展開しているティアナ。


「クロスファイヤー―――っ!」


「はぁ……仕方ないな、ったく」


「シューーートッ!!!」


その場を動かない良介に、必中を確信したティアナが合計10発の誘導弾を同時に発射する。


それを眺めていた良介は、徐に斬馬刀を横に構え、飛来する誘導弾を睨んだ。


「起きろ、飯の時間だぞ―――『悪喰』」


直撃、そう確信したティアナの表情は、次の瞬間驚愕に歪んだ。


接近した誘導弾が良介まであと1メートルと迫った瞬間、突然全ての誘導弾の構成が崩れ、良介が持つ斬馬刀に吸収されてしまったのだ。


「嘘……私のクロスファイヤーが……?」


「AMF!?」


「んな上等なもんじゃねぇよ」


呆然と呟くティアナと、ガジェットのアームを破壊して着地したスバルがその光景を見て思わず叫ぶが、それは良介本人に否定された。


「そんな上級魔法が俺に使えるかっての。こっちはジャケットすら生成できないってのに」


「…………まさか、その剣の能力なのか…」


シグナムの脳裏を過ぎるのは、魔剣と化した木刀の姿。


その問いに、良介はニヤリと顔を歪めて斬馬刀を振るった。


「その通り。名を『悪喰』、まぁ食い意地ばっかりの刀だが、魔導師相手には楽な刀だな」


魔剣製法は、何もただの魔剣を作るだけの術ではない。


掘り込む術式に応じて、剣に能力を付加させることができる。


木刀の時は、障壁の貫通と斬撃能力の付随。


今の斬馬刀は…


「魔力…いや、魔法吸収能力か…」


「そう言う事だ。生半可な魔法は通らないぜ、分かったら――――邪魔すんじゃねぇ」


「っ!? ティアァッ!!」


「え、きゃぁっ!?」


良介が冷酷な瞳でティアナを睨んだ瞬間、何かに気付いたスバルがティアナに飛びつき、その場を離れた。


悲鳴を上げてスバルに抱き付かれながら横に飛ぶティアナの目に、己が今まで立っていた場所に突き刺さる、赤黒い短剣が入った。


「ブラッディ・ダガー…っ」


リィンフォースUが使用した、実体化する鋼の短剣を放つ魔法。魔法ランクはAAAで、かなりの高等魔法だ。


「ちッ、やっぱりこの程度が限界か…」


舌打ちし、三本だけしか作れず、爆発もしなかったブラッディーダガーを一瞥する良介。


この魔法は、ミヤが残してくれた魔法の中にあったものだが、今の良介でも満足には使えない様子だった。


「全く、全然決着なんてつけられそうにないな。あ〜あ、借りたボールももう全滅か」


つまらなそうに嘆く良介。向こうの方で、ギンガの手によって二体目のガジェットが破壊された。


一体目はギンガのサポートでエリオが破壊しているし、3体目も現在スバルとティアナの攻撃でボロボロ。


「時間も無いし、次で決めさせて貰うぜ、シグナム」


「戯言を…その剣に如何なる力があろうと、私とレヴァンティンに恐れは無い!」


『Explosion.』


レヴァンティンのカートリッジがロードされ、その刀身に魔力が迸る。


「紫電一閃っ!」


刀身にシグナムのイメージたる炎が生まれ、良介に向かって切り掛かる。


シグナムの決め技たるその攻撃を、良介は笑みを消して迎撃する。


「はぁぁぁぁぁっ!!」


「おらぁっ!!」


横薙ぎに切り掛かるシグナムに向けて、その右手にあった斬馬刀――悪喰を、投擲する良介。


ソレに対して一瞬だけ驚き目を見開くが、冷静に投擲され回転する悪食を、切り払う。


そしてそのまま上段へとスイッチしたレヴァンティンで、良介へと切り掛かる。


対する良介は、信じられないことに更に間合いを詰め、レヴァンティンの刀身に対して左の掌を突き出した。


その掌から、シールド魔法のような光が生まれ、レヴァンティンを一瞬だけ受け止めてしまう。


「その程度で、止められると思うなッ!!」


だが次の瞬間、その光ごとレヴァンティンの刀身は良介の腕を真ん中から切り裂いた。


金属を切り裂く音を響かせながら、二の腕の中間まで切り裂くレヴァンティン。


「へ――――思ってねぇよ、そんなこと」


その呟きを聞きつつも、目を見開くシグナム。


レヴァンティンが切り裂いた左腕は、シグナムやヴィータが予想していた義手だった。


彼の本来の左腕は、フェイトが切り落としているのだから。


だが、シグナムが驚いたのは、金属製の腕ではない。


半ばまで切り裂いたレヴァンティンが、動かないのだ。


その位置から、一ミリも先へと。


「その先は、稼働用のジェネレーターとか言うのがあってな…並みの硬さじゃねぇんだとよ」


「くっ、貴様まさかこれを狙って――――!」


「その通りだぜ、シグナム―――ッ!!」


悪喰を、上に切り払わせる形で投擲したのも、一瞬だけ掌で受け止め、位置を調整したのも―――


全ては、この零距離を獲る為に―――!


「喰らいな、これが俺の全力だ――――」


右の掌に集まる七色の光。


掌には、ヴィータの時とは比べ物にならないほどの、流れでる鮮血。


「くっ、レヴァンティンっ!」


『Panzergeist!』


咄嗟にレヴァンティンにバリアを張らせるが、それを全く意にしない良介。


「無駄だッ、死に華散らせ――――『桜花』――ッ!!!」


掌で限界まで圧縮された血中魔力が、虹色の魔方陣の中で輝く。


その球体をシグナムの身体へと押し当てた瞬間、圧縮された魔力が爆発し、シグナムを吹き飛ばす。


「がはっ!!」


吹き飛ばされ、ハイウェイ跡の壁に背中から激突するシグナム。


彼女の騎士甲冑は、激突した瞬間に構成が崩れ、シグナムの姿は制服姿となっていた。


相手のバリアジャケットや騎士甲冑を、完全に破壊する衝撃魔法。


圧縮された血中魔力の爆発は凄まじく、パンツァーガイストの上からでもシグナムの騎士甲冑を破壊してみせた。


「リョーっ、大丈夫か、その魔法は使うなって言ってんだろっ!?」


空中でリィンとの戦闘を続けていたアギトが、慌てて良介の元へと降りてくる。


アギトがオロオロとしている視線の先には、ボロボロになった良介の右腕。


『桜花』はその破壊力故に、使用者まで傷つける諸刃の魔法。


その名前も、良介が魔法のイメージからつけた、特攻に等しい魔法。


「この程度、精々2・3日不自由するだけだ、問題ねぇよ」


「大有りだよ馬鹿っ、なんでそうやって自分を傷つけるんだよーっ」


顔の周囲で喚き散らすアギトに、煩わしそうに顔を歪めつつ、左手の義手に喰いこんだままのレヴァンティンを引き抜く。


「あ〜あ、もうこの腕駄目だな」


「またあの変態医師への借金が増えるな、リョー」


「うぐ、言うな、気が重くなる……」


アギトの言葉に顔を顰めつつ、吹き飛ばされたシグナムの方を見る。


既にシグナムの方には、シャッハやギンガ、リィンが駆け寄り、治療を施していた。


その前には、治療が終わったヴィータがアイゼン片手に立っている。


後ろを振り返れば、最後のガジェットを破壊したスバル・ティアナ・エリオが挟む形で身構えている。


「前門のゴスロリ、後門の雛か…ピンチなんだか、アホらしいんだかなぁ…」


自分で言って苦笑しつつ、右手に持ったレヴァンティンを投擲する。


「っと、何のつもりだテメェ」


ただ投げただけのレヴァンティンを受け取り、睨みつけるヴィータ。


それには答えずに、切り払われて地面に刺さった悪喰を抜き、地面に転がした鞘へと切っ先を入れ、器用に鞘へと収める。


「そろそろあいつ等が着そうなんでな、帰るわ」


「は―――――、ふ、ふざけんなっ!」


あまりにも気楽に、それこそ友人の家に遊びに来て、時間だから帰る的な発言に激怒するヴィータ。


逃がしてなるものかと全員が身構える中、軽く笑う良介と、その肩に立って身構えているアギト。


「そんな身体で、逃げられると思っているのっ!?」


「思ってるさ、思っているからそう言ってる」


ギンガの言葉に飄々と応え、あらぬ方向を見上げて目を閉じる良介。


全員が警戒する中、ふと、一番後方に居たキャロの耳が、小さな物音を拾った。


それは、この世界に来て日常的に聞くようになった、機械の駆動音。


段々と大きくなるその物音に、全員が気付いた頃、良介が瞳を開いてニヤリと笑った。


「ほら、来たぜ。お迎えがな」


――――ヴォゥゥゥゥゥゥンッ!!!――――


重いエグゾースト音を響かせ、ハイウェイの下から現れたのは、黒塗りの一台の大型バイク。


スポーツレプリカとも、オフロードとも思える車体に、フロントカウルには見た事のあるセンサー。


ブレーキ音を響かせて良介の傍らに止まったそれに、良介は戸惑う事無く鞘に収めた悪喰を、車体の横にあるスリットに差込み、跨る。


アギトは良介のフードの中へと入り、リィンに対してアッカンベーをしている。


「バイクっ!?」


「あれ見て、バイクのフロントっ!」


スバルが指差したフロントカウルある、見慣れたセンサー。


色こそ違えど、その意匠は、間違いなく、彼女達が戦ってきた兵器群。


「バイク型ガジェットだとっ!?」


「良いだろう、特別注文だ」


「それで更に借金増えたけどなー」


アギトの余計な言葉にうっさいと吐き捨て、右腕でグリップを握る。


「っ、逃がすかっ!」


アイゼン片手に飛び出したヴィータ、続くギンガ達を見て、抜けられる場所を見極め、そちらへとバイク型ガジェットを走らせる。


スバルとティアナの間を、フロントカウルにあるセンサーから発射される光弾で抉じ開け、走り抜ける良介。


「土産だ、受け取れッ!」


そう言って、良介は自ら左腕を肩口から外し…残骸と化した左腕を追ってくるヴィータに投げつけた。


その途端に始まるカウント音。


ふいに、先ほど良介がジェネレーターと言っていたのを思い出し、全員に散開を念話で呼びかける。


残骸が地面を転がり、数秒が経過した瞬間、小型ジェネレーターが爆発し、小規模ながら黒煙を巻き上げる爆発を引き起こす。


それを物陰に隠れたり、障壁で防御したヴィータ達は無事だったが、出鼻を完全に挫かれてしまった。


バイク型ガジェットのスピードは、スバルやギンガのデバイス並に早い。


追いつけるとしたら、飛行魔法が使える魔導師位だろう。


「お前たちはここで待機っ、リィンはシグナムの治療を、追跡はあたしが―――「任せて、ヴィータちゃん!」―――なのはっ!?」


ヴィータの、なのはの名を呼ぶ声は悲鳴に近かった。


なのはがこちらに居るということは、フェイトも、最悪はやてもこちらに来ている事になる。


そうなったら最悪だ。


今現在まで、ヴィータ達と戦っていた相手は、アンノウンとしてロングアーチへと送信していたのに。


何れ必ず知れれる、しかし今知られるのは避けたかった事なのにと、ヴィータは悔やむ。


悔やみつつも、ヴィータは頭上を飛行していったなのはを追いかけ、飛翔した。


「そこのバイクの操縦者、止まりなさいっ!」


エクシードモードのレイジングハートを構え、停止を呼びかけるなのは。


それを横目に振り返りつつ、バイクのスピードを上げる良介。


このバイク型ガジェットは、ある程度の自立行動が可能な上に、片手でも運転可能な走行能力を持っている。


先ほどの攻撃能力に加え、当然AMFも装備。


放たれたアクセルシューターが、車体前面で無効化される。


「AMF、やっぱりガジェットなの?」


「なのは、あっちに追い込もう」


追いついたフェイトが指差す先には、崩れて先が無くなったハイウェイ跡。


他の場所と違い、かなり高い位置に作られたその高さは、ビル20階に相当。


「私が追い込むから、なのはは先回りを!」


「了解っ」


バイクの進行方向を誘導する形で打ち込まれるプラズマランサー。


それに気付いているが、あえてその誘導に乗る良介。


やがて先の無いハイウェイ跡を走るバイクの前に、レイジングハートを構えたなのはが立ち塞がる。


「止まりなさい、止まらない場合は、実力で――――え?」


正面から見た、見てしまった、バイクを操る、男の顔。


それは、多少歳をとったものの、見間違えるハズの無い、男の顔―――。


「おにー……ちゃん………?」


呆然と、昔のように呟いたその言葉。


「なのは、撃てーっ!!」


フェイトの後ろから追いついたヴィータの声に反応して、アクセルシューターを発射するなのは。


「ヴァンディッド、前面フィールド最大ッ!」


対する良介は、バイク型ガジェットのAMFを前面に集中させて、アクセルシューターを無効化させる。


そしてそのまま、なのはの隣を走りぬけ――――空へと舞った。


呆然としつつも視線を向けたなのはが見たのは、悪戯が成功した時の笑みを浮かべた、良介の姿。


それがバイクごとハイウェイの下へと消え、その下にあったビルの窓へと消える。


「なのはっ、何ボサッとしてやがるっ!」


「で、でも、あれ、あれは…おにーちゃん…おにーちゃんだったよっ!?」


「何を言ってるのなのは、リョウスケは…リョウスケはあの時…」


「――――っ、もういいっ!!」


混乱するなのはと、落ち着かせようとするフェイト。


共にエースとは言え、心に深い傷を持つ二人に、冷静な判断なんてできる訳がない。


それを判断したヴィータは二人を残して良介の後を追う。


良介が消えたビルの中へと入るものの、そこから先は崩落して袋小路となっていた。


「どこだ、どこに居るっ、アイゼン!」


相棒たるデバイスにスキャンさせるが、ビル内部および外に、良介達の反応は無かった。


ロングアーチへと確かめるが、転移魔法等は一切関知されなかったとの事。


「逃げられたってのか…まんまと……ちくしょぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


レリックは奪われ、敵と思われる少女達には逃げられ、因縁のある男には翻弄される。


失態としか言い様の無い、無様な結果だけが残ってしまった。


その事を嘆き、遅れてきたはやてに報告するヴィータ。


全部は自分の責任と肩を落とすヴィータに、気まずそうに話しかける新人達。


はやてを含めた上官達全員が驚いた、レリックの隠し方。


敵は逃がしたものの、ロストロギアだけは確保できたと少しだけ安堵したはやて達。


だが、なのはとフェイトの表情は優れず、ヴィータとシグナムも、この後の事を考えて顔を伏せる。


死んだハズの男、宮本良介に関する報告を、どう行うかという悩みによって……。


そして、後にシグナムが気付くことになる、レヴァンティンに書き残された言葉。



『帽子の中身、大事にしろよ』



その言葉が、男の、鬼より戻りし剣士の底知れなさを感じさせるのだった……………。
































「ふぁ、やっと戻ってこれた…」


疲れた声で呟く少女。


ナンバーズと呼ばれる少女達と、ルーテシアが、彼女達、そしてドクターのアジトの通路を歩いていた。


彼女達が帰還したのは、先ほどルーテシアの集団転送魔法によって。


その事に礼をいうトーレにルーテシアは微かに頷く。


「おーい、ルルー、おっそいぞ〜っ!」


そんな彼女達の歩く通路の前から、アギトが手を振って現れる。


最後まで残った彼女が先に帰還している事にナンバーズは驚くが、その傍らで壁に凭れて立っている男の姿に、理解の色を示す。


「リョウスケ、アギト、無事…?」


「アタシは無事だけどさ、リョーがまた無茶しやがったよ」


アギトの言葉に全員がリョウスケの姿を見る。


確かに、左腕は肩口から先が無く、金属製の接続パーツが露出している。


鞘に包まれた悪喰を抱える右腕も、火傷や擦り傷でボロボロだった。


「あ〜あ〜っ、リョウスケ大丈夫っ!?」


「また、ボロボロだね」


駆け寄るセインとディエチ。それに対して右手をヒラヒラ振って大丈夫だと答える良介。


「まぁ、リョウスケさんがボロボロなのはデフォですしぃ」


「どういう意味だこの腹黒眼鏡。って全員で頷くなッ!?」


クアットロの言葉にナンバーズだけでなくルーテシアまで頷いているのだから、もはや共通認識なのだろう。


「左腕無いと不便でしょ、アタシがお世話してあげるよ」


「いらん、腕一本無くても問題ないっての」


ルーテシアとゼストに、そしてスカリエッティに出会うまで、隻腕で過ごしてきたのだから、その言葉には説得力があった。


「でも右手もダメージ大きそうだね。暫く使えないねこりゃ」


「そ、そんなことは無い」


ディエチの指摘に、少しだけドモる良介。


その瞬間、キラーンと光るクアットロの眼鏡。


「ではでは、両手が不自由なこの隙に、このクアットロが手取り足取り色々とってお世話して差し上げますよ〜っ」


「この隙にってなんだ、いらんわ、抱きつくなっ!?」


「ちょ、クア姉ずるいってばっ!」


「抜け駆け禁止ー」


ずずいっと詰め寄る三人の姿に、頭痛でもするのか頭を押さえるトーレ。


もはやお決まりとなった馬鹿者どもが…と、疲れたように呟いていた。


「トーレ、悪いがナルシーに腕の注文頼むわ」


「構わんが、いい加減ドクターをナルシー呼ばわりするのは止めろ。それに、何故私に頼む」


言外に、ウーノに頼めば良いだろうと言って。


ソレに対して、纏わりつくナンバーズを一瞥して一言。


「代価とか見返り要求しないの、お前ぐらいなんだよ」


その言葉に、心当たりがあるのかう゛と変な声を上げて停止する三名。


納得したものの、ウーノも何か要求しているのかとちょっと頭痛。


まだ目覚めていない姉妹が、そうでない事を願うものの、あんまり叶わない願いだったり。


「そ、それよりセインちゃん、ケースの中身確認っ」


「は、はいよ〜っ」


話を強引に変える為に、クアットロが切り出し、セインが答える。


トーレのお説教は、回避するに越したことは無い。


近くにあった台にケースを置き、ロックを解除するセイン。


その様子を、半ば確信を持った状態で眺めている良介に、トーレが怪訝な視線を向けている。


「じゃじゃーんっ………あぁ?」


勢いよく開けてみたものの、中身は空っぽ。


思わず叫ぶセインに、トーレとクアットロの非難が飛ぶ。


ソレに対して、良介は笑いを堪えるのに必死だった。


隣にいるルーテシアが、ケースに刻まれたレリックの刻印ナンバーを見て肩を落とすが、その頭を軽く撫でてやるボロボロの右手。


見上げたルーテシアが見たのは、頬の辺りがヒクヒクしているものの、気遣う視線を向けてくれている良介だった。


そんな二人を尻目に、セインが必死になって自分に落ち度はないと説明していた。


映像を映し、ケースのチェックも完璧だったと主張するセイン。


各々が映像を確認する中、良介だけがある一点を見て小さく「やっぱな…」と呟いていた。


その視線の先を見たトーレが、その意味に気付いた。


それは、帽子を被った少女の、その帽子の中。


そこに示された反応こそが、ケースの中身、レリック。


「馬鹿者どもがっ」


未だ気付かない姉妹達を叱咤するトーレ。


終に笑いを堪えられなくなり、笑い出す良介。


「まだ気付かないのか、ここだっ!」


そう言って、帽子を指差すトーレ。


彼女なら遅かれ早かれ確実に気付いただろうが、良介に教えられる形となったからだろうが、少し悔しそうだ。


「こんな所にっ?」


「してやられた訳だ…」


「すみませんお嬢、愚妹の失態です」


「全くだな」


未だ笑い続けている良介の言葉に、ぷくぅと頬を膨らませるセイン。


「つーわけで、俺の腕の新調代金は、セインが払ってくれたまえ」


「ちょ、なんでそーなるかなっ!?」


「あんだよ、文句あるのかコラ」


失敗は失敗だけに、強く言えないセインをここぞとばかりに責める良介。


意地の悪い男だと思いつつ、トーレは良介を止める事にする。


このまま彼が調子に乗れば、自分まで巻き込まれかねないと。


「ミヤモト、今回はお前にセインを責める資格はないだろう?」


「……………何のことだ?」


恍けてはいるものの、視線が泳いだ上に間があった。


言って良いのかというトーレのアイコンタクトに、すみません調子に乗りました許してくださいと瞳で平伏する良介。


変な所で弱いのは相変わらずの様子。


「ま、嬢が探してるのと違うし、別に気にしてねぇよな、な?」


「うん。私が探してるのは、11番のコアだけだから…」


強引に話を変えて、それじゃぁ俺はウーノの所に行くからと逃げるように歩き出す良介。


ルーテシアも自分用に用意された部屋へと歩き出し、アギトはどちらについて行くか思案したものの、変態医師に逢いたくないのでルーテシアの方へ。


ウーノ姉様に怒られる〜、面倒くせーと会話する姉妹を残し、良介の後を追うトーレ。


少しして追いつくと、特に呼び止めもせずに隣を歩く。


「………………何時気付いた」


「何の事だ?」


「恍けるな、連中がレリックを抜き取っていた事だ。事前に知っていたのだろう」


トーレの詰問に、肩を竦める良介。


その視線から、お前には勝てないと言っているように感じられた。


「最初、俺がケースを奪う姿勢を見せた時だ。
あの時、新人どもがケースを持つ小僧じゃなくて、あの帽子の方を庇う形で身構えやがったからな」


それで気付いたのかとトーレは驚愕する。


「普通、奪うと宣言した物を持った奴を一番にガードするだろ。なのにあいつ等、揃いも揃って帽子の方をカバーする形で動きやがった。
微かに動いた程度だから、無意識の行動だろうけどな」


良介のその言葉に、改めて目の前の男の底知れなさを感じるトーレ。


確かに彼は強いし、経験もある。


だが、スペックとして考えれば、自分達は彼を遥かに越えている。


だが、実際問題、彼に必ず勝てるという姉妹は、少ない。


現在目覚めている姉妹の中で、彼に勝てるとすれば、自分か、ノーヴェ、それにチンクだけだろう。


そしてその勝ちは、絶対に無事では済まない勝ちだ。


ルーテシアが彼を信頼し、あの騎士ゼストがルーテシアの警護を任せるほどの存在。


得体が知れず、掴み所がない不思議で不可思議な存在。


それが、トーレにとっての良介の印象。


「もしも、あのレリックがお嬢の探している物だったらどうしたのだ」


「奪うだけさ。簡単だろう?」


そう笑う良介に、なるほど確かにと納得するトーレ。


彼と、そしてセインかクアットロの能力を組み合わせれば、侵入できない場所など存在しないと言って良い。


そんな、危険を孕みながらも頼もしいとさえ感じる男に、トーレは微かに笑みを浮かべた。


「所で、左腕の代金一割で良いから肩代わりを」


「断る」


でもこいつはこいつだと、トーレは思ったのだった。

























狂気のリベンジャー・END







































next stage…「生きる意味」


















あとがき

え〜、皆様初めまして、そうでない方はこんにちは。妄想駄文書きのアヌビスです。
今回のお話は、作家リョウさんの日記内で掲示された復讐編というお話をモチーフに、私なりの妄想を付け足して書かせて頂きました。
内容としましては、StS12話の部分でのお話です。
最初はもしココに良介が居たらと考え始め、復讐編の良介とかどうだろうと思った末に、
カッとなって書きました、今は反省しています(何を)
このお話の良介は、狂う→なのはのSLBで消滅→何故か生きてて少しだけ正気に→ルーテシアに出会い、
恩を受けるといった経緯の果てに、ナンバーズの陣営に、お手伝いとして参加しています。
優先順位はルーテシア・ゼスト・アギトとなっていて、ナンバーズは割とどうでも良いといった扱いをしています。
特にドクターに関しては、完全にナルシスト扱いをして、嫌っては居ませんが深く付き合おうとは思っていません。
強さに関しては、かなり強くなっているように書いておりますが、自己犠牲連発なので、持久戦になったら死にます。
でも死ぬことはミヤが許さないので逃げます。
ウーノさんにはまず勝てません。
そしてトーレが言っていた良介の能力に関しては、ナンバーズのような能力(IS)であるとお考えください。
正確には、ISが変化した能力ですが。これに関しては完全に私の妄想なので、本家良介には無いと思います。
攻撃にも使える能力ですが、能力的にはセインのような補助的な能力です。
でも組み合わせれば反則と言える能力だったりします。
この辺りは、続編で書こうと思っております。
感想掲示板などで続編希望がたくさん寄せられたので、長編は無理ですが、短編連載といった形で書こうと思っております。
たくさんの感想を頂き、これは書くしかないと決意しました。なんとか頑張りますです。
中にはこういった話は苦手という方もおり、やはり万人受けなんて無理なんだなと痛感しつつも、
そんな方でも読めるような話を書きたいと強く思いました。
なので手始めに、本家Verの良介と六課の喜劇短編とか、このお話Verのギャグ短編とか書き始めてみました。
色々壊れているので、下手をするとファンの方に怒られるかもしれません、ドクターとか(何)
ネタさえ入れば続編も随時書こうと思っております。最初は地上本部襲撃の部分ですかねぇ…。

では、また次のお話まで失礼しますです。





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