「最近は連中も統率が取れてきたな」
「ああ」

 湯気を立てるコーヒーに口をつけて、志貴と恭平は今日の戦闘の映像を見直していた。
 そこでは、士郎には見えていただろうが二人には視認する事の出来なかった遠方から押し寄せていた機械兵の軍勢の姿が。
 まるで西洋騎士の鎧のような装甲に身を包み、完全に統一された動きで進行している。
 ちなみに士郎はというと、現在はここに居ない。
 今、志貴達がいるのは、アヴァロンという名の士郎が発掘したロストロギアの古代戦艦をさらに様々なロストロギアで改造した管理局保有の最新鋭次元航空艦にも勝るとも劣らない小型次元航空艦である。そのシルエットはまるで剣のようであり、そしてその船尾から船頭を繋ぐように楕円の環が装着されている。
 士郎は、今その操舵に集中しているのだ。いくら優れた自動操舵プログラムや各種ステルスが塔載されているとはいえ、管理局をすぐ近くに控えて機械任せといくわけにはいかないのだ。
 故に、会議室と銘打たれた部屋にいるのは、志貴と恭平のみなのだ。

「まあ、ガラクタなどどうでもいい。いくら数を用意したところで、我々の敵ではないさ」

 その機械兵達が整列し、進行している映像を消して、恭平が次の映像を出す。

「問題は、この人形共だ」
「そうだな」

 そこに映し出されたのは、十二人の少年少女の姿。まったく同じ表情で、まったく同じ格好をした、無機質なそれは、正に人形と呼ぶに相応しい。

「十二人……自我すら保てなかった粗製魔法士でも、これだけいると、多少厄介だ」

 実際に近距離でその能力を目の当たりにした志貴の呻くような声が、その事態の重さを語っていた。

「勝てなくは無いが……面倒だな」

 恭平もまた、それを分かっていた。

「そろそろ向こうも本腰を入れていたという事か」

 だが、その口元に浮ぶのは、笑み。
 何が愉しいのか、小さく肩を震わせて恭平は咽喉を鳴らす。

「実に面白い。策略も何も無い戦力での真っ向勝負、その先にある結末は一体何なのだろうな?」
「あまり遊ぶなよ。まったく、恭平は」
「許せ、“魔王”故だ」

 咎めるように言う志貴に、だが恭平に反省の色は欠片もない。

「またあんなことを繰り返すつもりか?」
「そんなことはしないさ。あれは父の為だ。何の意味も無くあんな事をするほど、私は愚かではない」

 耐えぬ笑みは、どうしてかそれだけで会議室の雰囲気を魔的なものに変質させてしまう。

「それならいいさ。過去のことを今更どうも言わない」
「感謝しよう」

 ようやっとその笑みが収まり、恭平は再び視線をモニターへと移す。

「だが、もしこの十二人が粗製などではない、まともな量子演算回路を塔載した魔法士なら、どうなっていたと思う?」

 途端、ぴんと空気が張り詰める。

「……まあ、俺達全員でかかれば勝てる。俺だけでも、全力で戦えばなんとか」

 冷静に、志貴はその判断を下す。

「まず自己領域を展開されたら通常の状態で俺達が連中に追いつく事はできない。光速の六十パーセントから九十パーセントで動かれるんだから、当然だな」
「だが自己領域の弱点は、接敵出来ないことにある」
「ああ」

 二人が先ほどから口にする、少年少女達を呼称する際に使用する魔法士、という単語。
 それは時空管理局と呼ばれる組織が扱う魔導と呼ばれる力や、士郎達の使う力とも違う、純粋な技術力によって生み出されるものだ。
 魔導とは、リンカコアと呼ばれる一部並行世界内における人間が保有する生きるために必要な生命力とも呼ぶべき魔力を精製する器官を利用し、さまざまな式によって発動する、まさに魔を式で導く魔導という力だ。
 そして士郎が使うのは、魔術。
 志貴も魔眼と呼ばれる類のものを使うが、それはまた魔術とは異なるものだ。
魔術とはこちらもまた一部並行世界内における、ただし本当に一握りの人間が保有するリンアコアと同じような機能を果たすもので、違うのはそれが個人によって本数が異なったりし、それが使用できる魔術の力に大きく関わるということだろうか。
 一方の魔眼とは、その魔術回路とはまた違う、それの変異した魔眼回路とでも呼ぶべきものを所有し、視覚などから特殊な能力を発現する眼のことだ。
 中でも志貴のそれは能力的に卓越している。直死の魔眼、と言う様々な存在の死という概念を線や点として捉え、それを切ったり突いたりすることで、線ならばあらゆるものを切り裂き、点ならば死そのものを発現させるという物騒極まりないものである。
 ただし、直接触れる必要があるし、脳に多大な負担がかかるというデメリットも存在する。
 士郎の魔術も士郎の世界で見ても稀少な属性のもので、一応は投影魔術という分類をされる。その内容は、一度見たことのある剣ならば多少の劣化はあるものの、大抵の剣を複製できるというものだ。
 他にも槍や盾なも投影は可能だが、それは剣を投影するよりも多く魔力を消費し、さらに精度も下がるのであまり士郎はそれを行うことが無い。
 いわば、魔導とはどちらかというと論理的な異能の力。魔術とは神秘的な異能の力である。
 だが、魔法士は違う。
 魔法士とは、この物質世界のもう一つの姿、情報の海と呼ばれるあらゆる物質情報を読み取り、干渉する能力者のことだ。
 例えば、ここに小石があったとする。一部の人形使いと呼ばれる魔法士は、その小石の情報を情報を海から拾い上げ、まず情報としての小石を形状Aであったものを形状Bに変え、分子構造Cであったものを分子構造Dに改竄するのだ。
 それにより、情報は物質的に干渉し、実際の小石すらも改竄してしまう、というわけだ。
 その行為を可能とすべく、脳内にIブレインという特殊な生体コンピューターを埋め込まれたのが魔法士なのだ。
 ただし、どうやらその製作途上において特殊な適正が必要らしく、適正の無い者は脳が破壊され、適正があってもその殆どが自我が崩壊し能力も大したことのない命令に従うだけの魔法士になってしまう。
 自我を保ちつつ、強力な情報操作が可能な魔法士というのは本当にごく僅か、千に一もいればいいほうだろう。
 その自我の崩壊した魔法士というのが、二人の言うところの粗製魔法士である。それでも、管理局の一般レベルの魔導師が束になったところでそれにかすり傷一つ負わせるのも難しいだろう。
 つまり、これが魔導、魔術、魔法士の説明である。

「自己領域は、自分の周囲の情報を都合よく改竄する反則技だが、自分の周囲の空間を改竄するからこそ、敵をその空間に入れては都合のいい物質法則が敵にも適応されてしまうからな」

 その中でも、自我を保った強力な騎士という部類の魔法士は自己領域という、志貴の言うような力を使うことが出来る。
 つまり魔法士Aが自己領域を展開し、その領域内の物質法則を改竄し、光速に近い速度で動けるようにすると、離れているうちは魔法士Bからはそれを知覚することは不可能に近いが、AとBが近づきすぎてAの領域にBが入った瞬間に、Bもまた光速に近い速度で動けるようになるわけだ。
 ということは、そこでプラスマイナスはゼロ。それどころかAはIブレインの演算を殆ど自己領域にもっていかれて他の行動が出来なくなっているので、それ以外に何も出来なくなり、何の演算もせずにAと同じ状態になれてしまったBの方がさらに情報を操作できて有利になってしまう。
 だから、騎士は敵が領域に触れる直前に自己領域を解除し、そこから身体能力強化の情報操作を行うという余計なプロセスが必要になる。だが、それも普通にみれば精々がコンマの後にいくつもゼロが並ぶという次元のロスだ。
 一言で言えば、強敵ということ。

「それだけのロスさえあれば、俺も反応は出来る」

 それに反応できるという志気は、かなり人間離れしているといってもいいだろう。

「一撃で首を落とせば対応できる」
「一対一では、な」

 それにすかさず補足する恭平。
 確かに、志貴が言うとおり一人の首を落としても、もし他にも多数の騎士が居た場合、そこでチェックメイトだろう。

「だからこその奥の手だろう?」

 だが、志貴は怯みもせずに笑んで、そう言う。

「奥の手は滅多に使わないから奥の手と理解しているか?」
「……そうだな」

 だが、恭平に言われて肩を落とす。
 事実上、今の恭平の言葉は志貴にまだ奥の手は使うなと言っているに等しい。つまり、苦戦しろ、ということだ。

「安心しろ、もしそんな事態になったら私も加わる」
「恭平は援護じゃないか」
「そう言うな」

 しかし志貴にとってもそれはありがたい話だった。

「まあ、その時は頼むよ」
「頼まれた」

 それが、会議の最後。
 互いにコーヒーを飲み干して、二人はそれぞれの部屋に戻っていった。

「では私は、僅かな策を弄するとしよう」

 廊下を歩きながら、恭平が呟く。

「……と、その前に学校か」

 その腕に嵌められた時計の針が指し示すのは、とある世界のとある島国の現在の時間。
 六時二十三分。 





「なんなんやろな、あれ」

 いつものように小学校を休んだなのは、フェイト、はやての三人はどこか落ち着かなさ下にアースラの食堂でそれぞれの食事をつついていた。
 ちなみにフェイトはグリーンピースを皿の端に寄せていて、はやてが丁寧にそれを元にもどしていたりする。
 フェイトの戸惑った様を穏やかな顔で見つめつつ、なのはは小さく溜息をついた。

「あの状況だけで、本局からの増援が決まったってリンディさんが言ってたよ」

 それはそうだろう。
 あれだけの惨状を生み出せる、それも何か新しい技術を使っているかもしれない相手に多少なりとも増援を送らないなど、無駄な火種を生むだけである。
 だが、とはやては思った。
 確かにこれだけの戦力を放っておくわけには行かない。が、事件からまだ二十四時間も経っていないというのに、そんなに迅速に増援が決定されるのは、些かおかしいのではないか、と。

「手続きやら上からの許可やら、そういうもんだけでも三、四日は増援は来ないと思ったんやけどな」

 それに、現在その事件を任されてしまったアースラの乗員には、Sランクの魔導師が三人も居るのだ。それを考慮すれば、検討の時間はもっと取られてもいいようなものなのだが。
 しかし、はやてはそれ以上考える事をやめた。

「ま、ええか。人が多いほうが楽やしな」
「だね」

 それに嬉しそうに頷くなのは。果たしてなのはの場合、単に他の魔導師なんかに会うのが愉しいだけなのではないか、とグリーンピース戦争で押され気味のフェイトはちろりと思った。

「でも、これから私達はどうするんだろう?」
「いくら何でも、子供にこんな前線は任せてくれんやろ」
「そうなの?」

 フェイトの質問に答えたはやてに、なのはが首を傾げた。だが、それもどこかほっとしているようにも見る。
 やはりなのはとしても、人死にの出た事件にすすんで関わりたいとは思えないのだろう。それは三人ともに言えることでもある。
 だが、同時に三人は理解もしていた。
 これからも時空管理局で働き続けるのならば、こんな事件にも遭遇する事は、この先何回もあるのだろうことを。
 だが、それを今話し合えるほど、彼女らは落ち着けてはいない。

「じゃ、私達は今回は見学だね」
「そやな。ええ勉強になればいいんやけど」
「だね」

 そう完結したところで、不意に単調な電子音が三つ重なって、鳴り響いた。
 取り出されたのは、三つの携帯電話。ちなみに次元空間でも使えるように改造済みである。
 取り出したのは、なのは、フェイト、はやての三人。

「……あれ、奇遇だね?」

 不思議そうに首を傾げて、なのはが折りたたみ式の携帯電話を開き、誰からの電話かを確認する。
 そして、そこに表示される名前に思わずなのはは嬉しくなった。
 なにやら、他二人も携帯の画面に表示された名前に困惑したり、意外そうにしていたりする。
 そんな表情を互いに見合って、慣れ親しんだ三人は互いに誰から電話がかかってきたのかを、おおよそ理解した。

「転校生の三人組やな」
「うん」
「私も」

 それだけ言い合わせて、三人が通話ボタンを押す。いくらなんでもそろそろ出なければ留守電になってしまう。
 なのは、フェイト、はやての三人の携帯に表示された名前は、これだった。
 衛宮士郎、七夜志貴、鮫島恭平。

『あ、こんにちは、高町さん』
「うん……って、だからなのはだってば。士郎君」

 電話に出たなのはは、そこから聞こえてくる士郎の声に、うれしそうに、そして僅かに責めるように言った。
 衛宮士郎。それが、つい先日なのはの通う小学校のなのは達のクラスに転校してきた三人の少年の内の一人だった。
 赤い髪と、優しい性格がすぐに人気の火元になってたりするのだが、士郎本人は恐らくそれに気付いていないのだろう。

『ああ、ごめん。じゃ、なのは、改めてこんにちは』
「うん」

 いちいち改めてまで言う必要は無いのでは、と思いつつ、だが可笑しくてなのはは笑みを抑えられなかった。

『酷いな、笑うなんて』

 電話を通してでも、なのはには士郎の困った顔が眼に浮んだ。

「ごめんね」

 素直に謝っておく。士郎も別段言うほど不満でもなかったので、それ以上責めることはない。

「それにしてもどうしたの?」
『ん、ああ』

 尋ねると、士郎が今思い出したと言わんばかりの声をあげた。どうやら本来の目的を忘れていたらしい。
 どうしてか出会って間もないのに、士郎君らしいな、という感想がなのはの頭に浮んだ。

『昨日と今日休んだろ? フェイトやはやても休んでたから、どうしたのかと思って』

 ちなみにフェイトやはやても士郎達には呼び捨てで構わないと伝えていた、少し例外はあるが。
 なのはやはやてはともかく、フェイトもそんなことを言うなんて意外だったのはクラス共通の認識だろう。
 なのはとしてはフェイトは志貴あたりのことを気にしているんじゃないかと思っていた。それとはやても何だかんだで案外恭平のことを気にいっているっぽい。だが、それはとりあえず別の話。

「心配してくれるんだ?」
『当然だろう?』

 士郎の言葉からは何の嘘も感じられない。それは真になのはのことを心配していてくれた、ということなのだろう。

「ありがと」

 思わず少し大きな声で、なのははそう返す。

「でも大丈夫だよ、ちょっと皆で大切な用事があったんだ」
『そうか、皆何とも無いんだな』

 士郎の安心した声がなのはの耳に心地よかった。どうしてか、なのはは士郎の声を聞くとどうしようもなく落ち着けた。それも、士郎の人柄故だろうか。
 思えば、電話番号をあっさりと教えてしまったのもそういう点からだろう。

『でも勉強も大切だぞ。もし学校来て分からない事があったら聞いてくれ』
「ありがと」

 それは素直にありがたかった。理数系などは魔導の性質上からなのはも得意なのだが、どうにもそれ以外となると並か、それ以下になってしまう。

『っと、そろそろ授業始まるから、じゃあな』
「そっか、今はお昼休みなんだ?」
『ああ、そういうことだ』

 考えてみると、今日は十分に学校にも行けたはずなのだが、となのはは反省する。だが時間的余裕はあっても精神的余裕が無かったのだから仕方も無いだろう。
 だけど、士郎達に会えないのは、なのはには残念で仕方が無い。まだ会ったばかりで、いろいろと話したいこともあると言うのに。 

『じゃあな』
「あ、うん」

 それで、電話が切れる。
 惜しい気持ちを隠そうともせず、残念そうな面持ちでなのはは携帯を閉じた。





『まさかフェイトがサボりを決行する子だったとは、思わなかったな』
「あう」

 志貴が口にした言葉に、フェイトは返す言葉も無かった。

『ああ、責めてるわけじゃないよ? ただ、意外だな、って』

 可笑しそうに言う志貴に、だがフェイトは顔を赤くするしかない。これで実際に面と面を合わせて話していたとしたら、その赤面もレベルの違うものだったろう。

「で、でも、あの、用事があったから」

 だから仕方ない、とは続けられなかった。
 勉強するのは、学校に行くのは子供の義務。フェイトもそれは分かっていた。
 だからこそ、用事ならば学校以外時間で済ませるのが模範というものだ。
 だが、といっても管理局の仕事を二の次には出来ない。
 そういうった板ばさみに、フェイトはどうしようもなく悪いことをしてしまった気分になり、身をちぢこませる。

『用事なら仕方ないさ。俺も、貧血で結構保健室ばっかで授業なんて大して出てないしね』
「で、でもそれは持病だからしかたないよ」

 しかし、基本フェイトは自分に厳しく他人に優しすぎる性格。
 志貴のその言葉に、即座にそう言い返した。これでキツい正確の人間なら、体調管理も責任のうち、などと言うのだろう。まあ、実際には志貴のそれは体調管理など出来るものではないのだが、他者には理解できまい。

『じゃ、フェイトも、学校休むのは用事があるから仕方ないな』

 そのフェイトの言葉をとって、志貴が電話越しにでも分かる微笑みを浮かべながら言う。

「あ、でも……」

 だが、そんな気遣いで納得するフェイトではない。

『でも、じゃない。仕方ないものは仕方ない』

 それに対する志貴もフェイトに自責の言葉をわざわざ言わせる性格ではない。

『例えば学校にいる時、自宅から電話があって、突然義理の妹が出来た、という知らせがあったとしようか』

 なんだろうその例え、とフェイトは疑問を抱いたが、口を挟む事はしなかった。ここで本来ならつっこむべきなのだが、妙に礼儀正しいフェイトは人の話を最後まで聞く良い子なのだ。

『そしたらフェイトは義理の妹という人物のことを後回しにして、学校を優先するか?』

 意味の分からない例え話だった。
 その変な内容が、むしろ穏やかな志貴の雰囲気を相まって奇妙な面白さをかもし出している。

「それ、なんか違うと思う」

 言うが、しかしフェイトの口元には笑みが浮んでいた。

『そうかな? ま、そういうことだって』

 どういうことだ、と聞くことはしなかった。
 ここまで気遣われて、フェイトがそれを否定するよう言葉を言えるはずが無かった。

「そっか、うん。わかった」
『そっか』

 と、電話の向こうからチャイムの音が聞こえてきた。学校の昼休み終了の予鈴だろう。

「あ、もう休み時間もお終いだね」
『だな』

 この時ばかりは、フェイトも学校ノチャイムを恨まずにいられなかった。

「じゃあね、七夜君」
『違うぞ、フェイト』
「え?」
『志貴、だ』

 数瞬、その言葉の意味を手繰り寄せるのにフェイトは数秒の時間を要し、そして理解して再度赤面した。
 それはつまり、下の名前を呼び捨てで構わない、ということだろう。
 これは親しい間柄という認識でも構わないのだろうか。あ、いやでも先に呼び捨てでいいと言ったフェイトにあわせているのだろうか。だがそれを嫌がらない時点で仲は少なくとも悪いと言うわけではないと思う。
 混乱した思考の中、フェイトが言葉を口に出来ずにいると、

『どうした?』

 混乱の海の中から、志貴に引き上げられた。
 慌てて落ち着いて――という表現も少しおかしいが――フェイトがすぐに返事をする。

「う、うん。じゃ、じゃあね、志貴」
『ああ、またな、フェイト』

 プツリ、と電話が切れる。
 数秒の間、切れた電話をフェイトは耳から離すことが出来なかった。名前で呼ばれたり、名前で呼んだり、そういう友人がなのはやはやてをはじめ、いないわけではないが、しかしそれは全員女子ばかりで、フェイトにとって男子でそういう風に呼び合う友人と言うのは初めてだった。
 不思議な気持ちを感じながら、フェイトは電話をたたんだ。





 電話が繋がったその瞬間から、少しばかり剣呑な雰囲気が電話越しに応酬された。

『やあ、はやて。どうやら死んではいないようで安心したよ』

 はやての鼓膜を振るわせるのは、中性的で綺麗な、なおかつ何か人の心をひきつける声色。

「そっちもそろそろ自動車にでも撥ねられたんちゃうか思うたわ」

 だが、はやてはどうしてかその声色があまり気に入らなかった。むしろ嫌いと言っても過言ではない。
 それはこのはやての態度からも明白だろう。

『生憎だが、自転車にすらぶつかってはいない』
「そりゃ残念や」

 はやての言葉に対して、しかし電話の向こうの相手、恭平は不快感を表すことなく、それどころか楽しそうですらある。
 それが、さらにはやてを苛立たせた。

「なんか用か。これでも一応急がしいんやけどなあ?」
『一応、ならば大した支障はないだろう?』
「あー、そやなあ。じゃ、もうすぐ一応が取れそうや。あと三秒ー」

 そのせいか、はやての言動はいつもよりも子供らしい。というより、いつもが大人らしすぎるだけなのだが。

『そう邪険にすることはないだろう?』

 あくまで、恭平の声は楽しそうだ。

『これでもはやての身を案じているのだが』
「士郎はいい、志貴もいい、だがアンタに呼び捨てにされんのは我慢ならん」
『おやおや』

 なんや、その余裕タップリ砂糖大盛りみたいな声は。女の敵か、女の敵なんやな?
 何か暴走を始めるはやての思考。
 どうやら、それほどまでに恭平とは反りが合わないらしい。

『いつもクラスで振りまいている笑顔を私にも分けてはくれないのか?』
「御免やな、この狸」
『ではそちらは狐かな』

 むしろ、反りが合いすぎてしまったが故の同族嫌悪な感はどうしようもなく否めない。

「はん、腹が膨れきった狸よかマシやな」
『狐はどうにも可愛らしい声で鳴くものだ』
「な――っ!」

 途端、顔が熱くなるのをはやては感じた。

「こんの、女垂らしが」
『ふ、おかしなことを言うな。もしや、はやての基準では女性というのは可愛らしいの一言で男に垂れるような軽いものなのか? ああ、ということは、君自身もそうなのかな?』

 返されて、唸るしかはやては出来ない。
 確かに今の発言だけで女垂らしとはいえないだろう。が、だからといってそういう解釈をするなんて、なんと恭平の性格の捻じ曲がった事か。
 しかも、そういうことを意図的に言うのだから尚悪い。

「他の男に垂れたとしても、アンタだけには絶対垂れん」

 せめてもの反抗として、はやてはそう言う。
 が、むしろそれは逆効果だった。恭平にとって自棄の発言ほど扱いやすいものはない。

『では私以外の男を今度紹介しよう。ああ、何なら士郎や志貴でも構わん。彼らならば君を十分垂らしきってくれるだろうな』

 思わず、はやては一つ前の自分の発言もあってか、つい士郎や志貴の腕に抱きつく自分の姿を想像してしまった。
 ば、馬鹿かっ!
 自分を叱咤して、はやては慌てて言い返す。

「阿呆なこと抜かすな!」
『それは失礼』

 ここであっさりと引くのも、はやての神経を逆なでる。
 まるで、自分など相手ではないとでも言われているように思ってしまうのだ。

「そのうちブチのめしたる」
『おやおや、では時間も無いことだ、私はこれ以上の恨みを買う前に退散しよう』

 それを最後に、電話は切れた。
 すぐに電話を閉じて、はやては苦渋の表情を浮かべた。





「……」
「……」
「……」

 電話の後の三人は、見事なまでに別々の表情を浮かべていた。
 なのはは笑顔で嬉しそうに。
 フェイトは俯いて恥ずかしそうに。
 はやては頬を膨らませて不機嫌そうに。
 なんというか、カオスとした三人の雰囲気に、その周囲で食事をとっていたアースラ乗員が三人から距離をとる。
 だが、その風潮に逆らう小さな影があった。

「マイスター!」

 白い、銀色の髪を凪がせて空中をはやてに向かって飛ぶその人影は、なんというか、普通に動かなければフィギュアと言っても平然と通じそうな大きさだった。

「リィンやないか……どした?」

 その影が、リィンフォースと言う祝福の風の名を受けたユニゾンデバイスが目の前で停止して、はやてが尋ねる。
 すると、リィンフォースの頬が小さく膨れた。

「あー、忘れてるですか! 調整が終ったので次はユニゾンテストをする約束でしたよ!」
「ああ、そやったな」

 しかしそれに返すはやては、どこかやる気なさげだ。やはり恭平に言葉で負けたのを引き摺っているのだろう。

「なんですかその返事は!」

 リィンフォースとしては、その反応は非常に好ましく無いものなのだろう。腕を振り回しながら、はやての頭の上を旋回し始める。
 傍からみるなのはやフェイトからしてみれば、随分と平和な光景だ。

「とにかく、いくです」
「あたたたたたた!」

 依然として動かないはやてに痺れを切らしたリィンフォースが、はやてを髪の毛を掴んで引っ張る。その突然の痛みに椅子から転げ落ちそうになりながら、はやては慌ててリィンフォースを髪の毛から引き剥がす。髪の毛が数本リィンフォースの手に残ってしまったのはご愛嬌だろう。

「なにすんや!」
「マイスターが悪いです」

 怒鳴るが、しかしリィンフォースは反省の色を見せはしない。 

「ほら、はやてちゃん」
「まだ生まれたての子供なんだから、構ってあげないと」
「あー、お二人とも酷いです! 子供扱いです!?」

 それになのはとフェイトが弁護をしようと試みたが、しかしその言葉にむしろリィンフォースがダメージを受けたようだ。
 最早半泣きになりながら、リィンフォースが机の上にへたりこむ。
 と、その腕の中に小さな本が現れる。小さい、といってもリィンフォースにとっては抱えるほどの大きさである。

「リィンはこの蒼天の主である立派なデバイスですよ。初代夜天の主である姉さまの名前を継いでるんですよう」

 流石にそのいじけきった姿が可哀想になったのか、はやてが慌てた様子で口を開く。

「ほ、ほらリィン! じゃあ訓練場行こか!」
「もぅいいです」

 リィンフォースは完全に拗ねていた。
 ここで付け加えておくと、本来ならリィンフォースと共にはやてと共にいるべき四人のヴォルケンリッターという騎士達がいるのだが、その四人は現在別の任務で大きな次元犯罪組織の解体に取り掛かっている。
 リィンフォースは、そんな状況だからこそ、と意気込んでいたのだ。
 それをこんな扱いでは、いくらなんでもいじけると言うものだ。ましてや生み出されて間もないのだ。精神的に不安定で、今回はそれにかまってやれなかったはやての完全な失敗だろう。

「そ、そんな事言わずに、な?」
「そうだよ、ね?」
「う、うん。頑張ろう?」

 その後、リィンフォースの説得は回りのアースラ乗員を巻き込んで、三十分間続いたという。
 結局、妥協案として防御しかしない的として利用されたなのはとフェイトは、後日はやてにケーキを奢らせる約束をして解決としたらしい。





『いいのか、こんな、学校に通って、管理局員なんかと仲良くなって』

 教師の話を流しながら、念話で志貴は恭平に話しかける。
 彼らにとって、小学校の勉学など聞くまでも無い。既に知りきった知識だった。なにせ、いろいろあって彼らの精神年齢は平均二十五歳程度なのだから。
 それで小学校に通うのだから、きっと釈然としないものを抱いているのだろう。

『相手の動きを知るには、その懐に潜り込むのが一番だ。それに、相手は子供。どうやら能力はそこそこ高いらしいが、情にいくらでも流される』
『そういう言い方は止めてくれ』

 恭平の冷徹なまでの台詞に、士郎が困ったように言う。

『彼女達だってきっと一生懸命なんだ』
『……甘いな』
『悪いか?』

 平然と、自分が甘いと認める士郎。

『いや、それでこそ士郎だろう?』

 恭平もそれを責めはしない。そうでなくては、衛宮士郎は衛宮士郎でなくなってしまう。

『安心しろ。彼女らには……いい勉強とでも思ってもらうとする』
『いい勉強、ね』

 何か含んだ言葉を言って、志貴が苦笑する。

『まあ傷つけるのは御免だからな』
『私とて無駄に被害を出すつもりは無い』

 そう、恭平は決してなのは達を傷つけるつもりなどなかった。
 ただ、利用するだけだ。
 利用して、利用して、そして利用するだけ。

『もっとも、精神が持つかどうかは私には保障しかねるが』
『ほんと、“魔王”だな、恭平は』
『……彼女らの負担ならないようにしろ』

 あくまで、三人の目的は一つ。





あとがき
さて、困りました。
本文よりもあとがきのほうが苦労することが判明しました。
いえ、もちろんそれは本文を手を抜いているというわけではないです。
ただ、ちょっと私の文章力および読解力および構成力とかが不足しがちなだけです。
なので今回の能力説明文も適当にながしてもらえたり、脳内補完してもらえたらありがたいです。
魔法士は電撃文庫から発売されている「ウェザーズ・ブレイン」という小説に出る人達の設定を引用しています。
一応、人物とかは出てないんでクロスオーバーに名前を連ねませんでしたが、勘違いなどさせてしまったのであればご容赦ください。
ちょくちょく武器とか設定だけ色んな作品から引用する可能性がありますが、その場合はあとがきで明記しようと思います。
パラーバランスには極力気をつけますが、もし嫌悪感を抱くような方がいたらすみません。
多分次の話から好き嫌いがはっきりすると思うんで、それで読み続けるかどうか決めてもらえればよろしいかと。
まあ、そんなこんなで。
実はこれだけの文章に三十分近くかけてるんですよね。
なのでここらで退散させていただきます。すみません。

追伸:掲示板にアドバイスがあったので、とりあえず会話文のとこだけ一行空けてみました。
   これで多少は読みやすくなった……はず?







作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。