あれから数日後、ミッドチルダ周辺にあるロストロギアの報告がなされた。

探査機の使用により、短期間のうちにミッド周辺全体の捜索が行われた。

無関係のロストロギアは多数発見されたものの、預言に関係あるとされるものは存在しないことが確認された。

半年間の地道な捜査が徒労だったと感じるほどの手際のよさだった。

避難警報は確認された日のうちに解除され、皆、元の生活に戻っていった。


――そして、ミッドチルダは再び元の活気を取り戻した。


管理局員の不祥事が報道されたが、不安な日々を過ごしてきた人々にとって、それに開放された喜びの前では些細な出来事だったようだ。


――あの後、俺達は気絶した犯人を戦艦に連れて帰った。

予定では、そのあと人目につく場所にロストロギアと一緒に置いておくつもりだった。

そうすれば抜け出した事実を知られずに管理局へ引き渡せる。

あの事態だったのだ。たとえ犯人が俺達のことを自白したとしても、肩の怪我さえ隠していれば、とぼけ通す自信はあった。

しかし、運んでいる途中でシャッハに見つかってしまい、作戦は失敗した。

俺もマリアもこっぴどく怒られ、ミッドに行った事はカリムにまで伝わり泣かれてしまった。

それでも、執務官であるフェイトからは心配はされたものの感謝され、マリアは嬉しそうだった。


女はクラウディアの局員により逮捕され、今は留置場の中だろう。

管理局には抵抗した犯人と取っ組み合いになったとだけ伝え、俺とマリアを殺そうとした事は言わなかった。

カリムに心配をかけたくないのも理由の一つだが、力の無いものとして一方的な同情心をもってしまったのもある。


そして何より、あいつを非難する資格は俺には無かった。










今はカリムの私室で親子三人反省会をしている。

内容は、主に今年の預言と自分達の行いにについて。

今回は前例を見ない結果となり議題も多いはずではあるが、どちらかというと家族会議に近い。


「はぁ……」

カリムが手に持ったページを見つめている。

「カリム、お前さっきからため息ばかりついてるぞ」

「だって、私の預言があそこまで外れて、皆様に不要な心配をかけさせてしまって……」

「おいおい、あんなの外れてよかったじゃないか。
それとも、教会本部をミッドから引越したかったのか?」

「そんなことはありませんよ。あの通りにならなかったのは喜ぶべきことです。
ただ、私の作成した預言がかすりもしないものだったというのが……はぁ」

これは重症だな。

「お母様、その預言のおかげでロストロギアを盗んだ犯人を捕まえられたんですし、結果的にはよかったじゃないですか」

「マリア、私がどれだけ心配したかわかっているのかしら」

「ご……ごめんなさい」

「マリアとリョウスケさんがいなくなって、私一人置いていかれたらと思うと……」

「お母様……うぅ」


今回の一件で、マリアは完全にカリムに頭が上がらなくなった。

心から慕っている母に心配をかけたのがよほど堪えたのか、あれから前にも増して孝行娘になった。

それはそれで結構だが、あの時の共犯という意味では俺も同じだ。

助け舟くらいは出してやろう。


「いいじゃないか、カリムが気付いた時には全て終わっていたんだし」

「何を言っているのですか、アナタだってあんなに大きな怪我を――」

「こんなの気にするな、俺の体の治りの早さは知っているだろ」

「そうですけれど…」

「なら、傷についての話題はもう終わりだ。それでいいだろ」


カリムの言葉を遮った。

あまりこの傷を指摘しすぎると、マリアが自分を責める。

そして、いずれは騎士としての道を諦めることに繋がる。

俺のせいでマリアの可能性を閉ざしてしまうのは、なんとしても避けたい。

あとでカリムと二人きりの時に、この怪我については簡単に話しておこう。


「……もう、あんなことはしないでください。
今回は外れましたけれど、当たっていたら巻き込まれていたかもしれないんですよ」

「そうですよお父様、私だって心配だったんですから」

マリアがカリムの側についた。

「それに、どうしてお父様は今回のエネルギー反応があのロストロギアによるものだってわかったのですか」

「それ、私も気になっていたんです。
何か見分ける方法があったら教えてくださいませんか?」

「ああ、あれか。あれはだな……」


辺りを見渡す。


――この部屋には、俺達の他に誰もいない。


他の人間に知られずに済ませるのなら十分な場所だ。

念のため、カーテンを閉めておく。これで外から見られる心配もない。


「アナタ!?今はマリアが見ているのですよ、それにまだお昼前ですし……」

「アホか。見当違いの事を考えるんじゃない」


顔を赤くするカリムを一蹴する。

幸い、マリアは何を言っているのか分からないらしく首をかしげている。


今ならまだ引き返せる――


浮かんだ思考を振り払う。くだらない。

こいつらには明かすと心に決めたじゃないか。


ポケットに手をいれ、中に入れている物を取り出す。


短冊のような形の、古代ベルカ語が書かれた紙切れ。

若干皺ができているが、神秘的な輝きは失われていない。

そして、それに書いてある文を読み上げた。


「『死せる王を奉りし者の伴侶、世界に偽りをもたらす。
人々は欺かれ世界を去り、咎人は惑わされ、欲の結晶は法の手に還る』
全く、お前の予言は優秀だよ」

「お、お父様!それ――!?」

「わ…私の……!」


マリアが慌てている。頭の回転が速い方なのか、どうやらこれだけで全てを理解したようだ。

カリムも珍しく唖然とした表情をしている。

俺の手にある、魔力が足りず祭壇に置いてあった本物の予言書を見ながら。


「お前に持って来る時すり替えたんだ。あれは俺が書いたニセモノ。
元々、ミッド壊滅なんて起こる予定は無かったんだよ。
……それにしても驚いたよ。俺がやろうとしていた事の結果が、これに書かれていたんだからな」


力の無い俺がページ作成の失敗を聞いて思いついた「俺にしか」出来ないこと。

それが、カリムのページを似せて作ったミッドが滅ぶという贋作。

自分でも、なんて歪曲したものだと自嘲する。

全ては、ロストロギアを盗んだ犯人をおびき出すために仕組んだ罠。

ミッドから人が避難すれば探査機の使用は可能だ、何年も怯え続けることはない。

多くの人を騙しながら、捏造した予言に振り回され欲に溺れて出てきた犯人を捕らえた大掛かりな芝居。


俺にも微量だが魔力はある。

話が違うと怒るミヤをしつこく説得して、偽の預言書の作成に協力してもらった。

口止め料に、食事を奢るのを条件に。

そんな俺の行動の行く末を、こいつの預言書は見据えていたのだ。


「そんなことして!ゆ、許されると思っているのですか!!」

騙されていたとわかり、マリアが動揺しながらも烈火のごとく怒り出した。

「落ち着け。一応犯人を捕まえられたんだし結果的には良かったじゃないか。
管理局としても色々なロストロギアを探し出す機会になったわけだし。
それに、そもそも預言っていうのは本物もニセモノもないはずだろ」

「だ、だからって!
それに、ミッドにいる人々に無駄な心配をかけさせてしまったじゃないですか!」

「ほお、何の心配だ?預言は公開してないんだぞ」

「う…そ、その……ロストロギアでの災害の心配を……」

「起こりそうになっただろ、あの管理局員が盗んだやつが」

「う、うぐぐ……」


俺のこじつけに言い負かされ、言葉が続かなくなる。


非難を受けるのは百も承知だ。

だが、悪意を込めてやったわけではない。

確信犯だと言われても構わない。

それだけ理解してくれれば、俺は十分だった。



そんな中、当事者の一人であるカリムは既に平常心を取り戻していた。


「アナタ、どうしてそれを私たちに?黙っていられたら、完全犯罪にできましたのに」

「……なんだか響きが悪いが、まあいいか。
俺達は家族だろ?だから、どんなことでも言っておくべきだと思ってさ」

「家族……」


マリアが小さく呟く。

その俺の応えを聞いたカリムが、どこか満足そうな顔をした。


「フフ、でしたら預言書を偽造する時も仰ってくだされば私たちも協力しましたのに……そうでしょ、マリア?」

「え!?……え、えっと」

「……まあ、あれだ。敵を欺くにはまず味方からってやつだよ」


適当に誤魔化しておく。


――この余裕、やはりカリムは察している。


俺が、当初はこの預言を誰にも打ち明けるつもりが無かった事を。

俺自身、ハリガネと話すまでは黙っていようと思っていた。


家族に自分を包み隠さない。


これだけで完全に二人と向き合えるようになったとは考えていない。

ただ、何かの切欠になってくれればそれでよかった。


「まあ、悪かったよ。みんなを不安にさせて」
「でも、こんなこと…」


マリアはまだ不満が残っているのか、複雑な顔をしている。

今頃、あいつの正義の中では手段と秩序が争っているのだろう。


「マリアには黙っておいたほうがよかったか」

「いえ、このような行為は見過ごすわけにはいきません。
……でも、きちんと話してくださったことは…その……嬉しいです」

若干ふてくされながらも、割と素直に答えてくれた。

「そりゃよかった。こっちとしても自白した甲斐があったよ」

「で、でも!これからは何かあったときには、ちゃんと私たちに相談してください!
もっといい方法が見つかるかもしれませんし、それに…私も……ちからに…」

最後が聞き取りづらいが、マリアのその言葉はしっかりと俺に伝わった。







部屋を出ると、アリサがいるのに気付いた。

誰かを待っているのか、その場に立ち止まっている。


「どうしたアリサ、遊びにでも来たか」

「良介、うまくいったわね」


俺の問いには答えずに放たれるアリサの一言。


一瞬、心臓が止まったかと思った。


先ほどの俺達の様子を、監視カメラか何かで見ていたかのような台詞。

加えて、この見透かした視線。

何を指しているのかは考えるまでもない。

だが、あれはミヤとあいつら以外には誰にも話していない。

証拠もポケットの中にある預言書のみ。こいつが知っている筈は無い。

動揺を必死で隠しながら、驚いて忘れかけた返事をする。


「な……なんのことだ?」

「とぼけてもムダよ。アンタ、預言書を捏造したでしょ」


完璧に図星を指されるが、多分これはアリサのハッタリ。

けれどもこの話し方、もしかすると確信している可能性もある。

だが、こいつには隠し通すつもりでいた手前、認めるのは抵抗があった。


「言ってることが分からないな。確かに預言は外れたけど、たまにはそういう事もあるだろ」

「……ミヤから聞いたわよ」

「!!あのチビ……」

「ふーん、やっぱりミヤの力を借りてやったんだ。
あの子は何を聞いても全然口を割らなかったのに、主犯格はこうも簡単に白状するとはね」

「なっ!おまえ、ひっかけたな!」


口止めをしておいた奴を引き合いに出され、あっさり認めてしまった。

こころなしか、アリサも呆れた顔をしている。

我ながら迂闊だった。


――そして、心の底で少し安心した。


代価は支払ったが、ミヤは俺との約束を守ってくれた。

そもそも、人が土下座までして頼んだことをミヤは簡単に他人に話したりしない。

それを疑う形となった詫びも込めた口止め料だったが、その必要は無かったのかもしれない。


「いつもはカリムの預言を気にかけていたのに今回はそういった様子が無かったから、
そんなんじゃないかって思ったのよ」

全く、こいつには敵わないな。

「それにしても、あたしにまで黙っておくなんてね」

「わ、悪い……」

「いいわよ、あの探査機が活躍したおかげで、あたしもいい思いをさせてもらったから。
それに、あたしだけ特別扱いだと、あの子も嫉妬するだろうしね」
























木枯らしが吹く聖王教会の敷地内の一角、俺たち親子三人は箒で落ち葉を集めていた。

今はカリムとマリアも修道服ではなく、教会の中では珍しく私服姿でいる。

二人とも 飾らない落ち着いた格好だ。

マリアには、先日着て見せてくれた普段は着ない女の子らしい服も勧めたのだが、他人に見られるのは恥ずかしいと言って別の服装にしている。

それでは持っている意味が無いとは思ったが、新しいものに興味を持っただけ良しとしておく。

あいつには避けられていると考えていただけに、ああやって見せてくれたのは意外だった。



考えているうちに、落ち葉が集め終わる。

ライターを取り出してそれに火をつけると、落ち葉の山から煙が立ち上り周囲を暖めた。

こうして親子水入らずで何かをするのも久しぶりだ。


そう思っていた矢先、今日も元気なシスターが猛スピードでこちらにやって来た。

グラシア家の団欒は、姑役の参入によって脆くも崩れてしまいそうだ。

まあ、来るだろうとは予想していたのだが。


「良介さん!こんなところで火なんか起こして!放火でもする気ですか!!」

「ああ、これか?中でサツマイモを焼いているんだ」

「さ……さつまいも?」


聞きなれない名前だったのか、シャッハが混乱している。


日本では定番であるものの、見ることの少ない冬の風物詩。

この世界ではひどく原始的な調理法だが、その分新鮮味があった。


「あらシャッハ、ちょうどよかったわ」

「もうすぐ焼けますよ、一緒にどうですか?」

「マリア!騎士カリムまで……!」

「ほら、できたぞ。皮はちゃんと剥いてから食べるように」


軍手をして煙が立ち昇る落ち葉の中からアルミホイルに包まれたサツマイモを取り出し、シャッハに差し出す。

半ばからかいながらの俺の言葉も耳に入っていないのか、不思議そうに見つめている。

そして戸惑いながらも受け取り、皮を剥きかじりついた。


「……おいしい」

どうやら、シスターには好評を博することが出来たようだ。

「ほら、お前たちも」


カリムとマリアにも焼けたものを渡す。

火傷をしないよう、丁寧に二人が受け取った。


「行きましょう、マリア」

「はいっ」

「アナタ、お先に頂いていますね」


そのまま、灰が舞わない場所に移動して食べ始めた。

みていて微笑ましい母子の団欒だった。





焦げないように、落ち葉の様子を見る。

その最中、誰かが近づくのを感じた。

隣を見ると、俺の横でシャッハが焼き芋を片手に落ち葉を覗き込んでいた。


「なんだかこの落ち葉、よく燃える割に灰にならないですね」

「ああ……教会の敷地内だからな。聖王のご利益でもあるんだろ」

「くす、いつもの良介さんらしくない台詞ですね」


シャッハが苦笑した。

俺の反応に満足して関心が無くなったのか、落ち葉についてはそれ以上気にしなかった。

宗教を通じての思想の共有というのは、それだけ嬉しいものらしい。

だが、残念ながら聖王をそのような人物などとは露にも思っていない。

所詮、俺にとってはただ人だ。





落ち葉に向き直る。

ちぎった紙切れが、集めた落ち葉の中で燃えながら所々で光っている――

ここで俺たちが落ち葉焚きをしている、本当の理由。


それがこの、処分に困ったページの有効利用。


いつもはお堅いカリムとマリアも、今回は珍しく賛成してくれた。


自分を改めようと踏み出した俺に、確信を与えてくれた預言書。

そして、管理局の目に触れないまま終わる未来の道標。

案ずるに、今までカリムが作成した中で最も悲惨な扱いを受けたページだろう。

せめて、最期はこうして別の役に立ってくれればと思うばかりだ。





「あ、パパだ。おーい!」

マリア以外に俺を父親と認識した声が聞こえる。

俺たちを見つけたヴィヴィオが走ってきていた。


「ヴィヴィオじゃないか、遊びに来てくれたのか?」

「うん。なのはママがおしごとできょうかいに行くようじがあって、ヴィヴィオもついてきたの」

「そうか、丁度いいところに来たな」

「これ……たき火?」

「ああ、これはな…ほら、こういうのが入ってるんだ」

「あ、これ知ってる!なのはママがもってる本でみたことあるよ」

「なら説明は大丈夫か、熱いから気をつけてな」

「うん、ありがとうパパ」


ヴィヴィオにも同じものを渡す。

それを手に取ると、マリアたちがいる場所にトテトテ走っていった。









「ごちそうさまでした」


シャッハがハンカチを取り出し、上品な手つきで口元を拭く。

もう片方の手には、食べ終わって丸められたアルミホイルがある。

最初はなんだかんだ言いつつも、満足してくれたらしい。


「それにしても、マリア……なんだか変わりましたね」

「ん、そうか?」

「はい。なんだか明るくなったというか、寛大になった感じがします」


シャッハの視線の先で、マリアが母と妹と一緒に仲良く焼き芋を食べている。

言われてみれば、真面目さが取り柄だったあいつには珍しい光景かもしれない。

ヴィヴィオと同じく、焼きたてで熱いのか苦戦しているようだ。


「父親として、喜ばしいんじゃないですか?」

「……ああ、そうだな」



これからも永遠に続いていく、俺とカリム、マリアの関係。

きっと、切れることは無い。



家族と一緒に、マリアが笑った。


いつか見た、懐かしい笑顔だった。























後書き

お読み下さり、ありがとうございました。

作者の雪玉と申します。

リョウさんや投稿者様の小説を読んで、自分も何か書いてみたいと思い投稿いたしました。

その中で、題材にリョウさんの日記の拍手に登場していたマリア・グラシアをメインにさせて頂き、

日記に書かれていた内容と作者が抱いた印象などを元に話を構成しました。

皆様の思っていたマリアは、この短編のと比較していかがでしたでしょうか。

今回預言偽造という他でも使われていそうなベタ気味なネタを使用しましたが、もし二番煎じだった時は温かい目で見て下さるとありがたいです。

加えて、預言もどう書けばいいかかなり苦戦したり……

文や比喩表現、また内容がミッドチルダ限定なのか全世界を含むのか分からなかったので色々悩みました。

ちなみに、日記で未来視というのを拝見した時ルパン三世長編に出てきた弾が入っていない銃の引き金を引いたあの娘が同時に浮かびました。

ルパンシリーズではあれが一番好きです、とっつぁんのカッコよさには痺れます。








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に下さると嬉しいです。