以前リョウさんが日記で書かれていた良介とカリムの娘、マリアメインの短編物語です。

作者は質量兵器を、魔法を使わない火器や銃器と解釈しているため剣や弓は該当しないと考えています。

そのため、作中でマリアが稽古用に真剣を持っています。

お読みになられる時は、その事をご理解していただけたらと思います。



























機動六課が解散して数日。

満開に咲いていた桜も散り、これから夏に向かうように新緑の若葉が生え始めた。

共に戦った仲間も、今は皆それぞれの配属先で活動している。


それに伴い、放浪同然だった俺も聖王教会での生活に連れ戻された。





朝食を済ませ、教会内の庭園にあるベンチに座り新聞を読む。

朝刊の記事の一面。そこに、気になる見出しがあった。


『ロストロギアの広域探査可能へ』

世界外の宇宙にあるロストロギアの広範囲での探査が可能となった。

大手機械企業で開発中である探査機の試作品が来月にも完成予定。

近い将来、宇宙に散在するロストロギア捜索の向上に期待。

なお、使用時に出る放射線が人体に悪影響を与えるとされるため、まだ実用化には至っていない。





記事の大きさに負けず、中身もそれに相応しいものが載っている。

技術の発達というのは、どこの世界でも目覚しい速さだ。

そのうち、管理局がロストロギアの調査をするときも一役買ってくれる日が来るかもしれない。


「お父様、仕事が溜まっていますよ。
いつまでもぐうたらしていないで、騎士としての務めを果たしてください」


考えに耽っていると上から声が響き、顔を上げるとマリアが立っていた。

怠けていたように見えたのか、機嫌が悪そうに見える。


「マリアか……いいじゃないか、この朝の時間くらいのんびりしても」

「何言ってるんですか、もう仕事を始める時間ですよ。
新聞は時間があるときに読んで下さい。」


マリアが手を伸ばし読んでいた新聞を取り上げられる。

俺の朝の束の間の休息は、こうして阻止されてしまった。















執務室にある机に向かい、カリムの夫、リョウスケ・グラシアとしての仕事を始める。

騎士と言っても、やっていることは主に雑務。

そして、どちらかといえば教会騎士であるカリムを支える立場に近い。

教会の衣装こそ身に付けていないが、周囲の人間にはそういった認識をされている。

傍にいるシャッハも教育者として色々と忙しい。

カリムの一番身近な存在である俺にとって、この業務は適役なのかもしれない。


「アナタ、この書類をお願いしますね」


カリムから本日分の仕事を渡される。

管理局に関するものや、聖王教会の運営について等様々なものが机の上に並べられた。

お兄様と呼んでいたあの頃とは、もう別の関係。

教会の中ではあいつの方が立場は上で、それ以外ではお互いに対等。

それをしっかりと割り切れるカリムが頼もしくもあり、多少つまらなかった。





淡々と仕事をこなしていく。こういったデスクワークをやるのも久々だ。

格段責任の伴う仕事をやっているわけではないが、如何せん肩がこる。

日頃の怠慢が祟ったか、それは次第に俺の集中力を奪っていき、

やがて始めてからさほど時間が経っていないにも関わらず、早くも手が止まる。


そして数分後、まだこの生活に慣れていないだけだと自分の中で言い訳をしながら、最初の休憩に入った。

成果はほとんど出せていないというのに、妙に体が疲れていた。




作業を中断していると、通信回線の受信音が鳴り出す。

少しばかり鬱陶しく感じながらも発信先を確認すると、その気分が少し和らいだ。

相手はフェイトからだった。


「リョウスケ、今大丈夫?」

「ああ、ちょうど休憩していた所だ。何か急ぎの用か」

「ううん、そうじゃないの。
リョウスケの生活環境も変わっただろうし、どうしてるかなと思って」

「なんだ、俺か?
とりあえず平和に過ごしてるぞ、それといったトラブルも無いしな。
そっちはどうだ、お前も執務官の仕事に専念するのは一年ぶりだろ」

「そうだね、こっちもティアナが一緒になって少し賑やかになったかな。
今は捜査とかで忙しいけど、時間が出来たらまた会いたいね。
ティアナやシャーリーもリョウスケに会いたがってたよ」


嬉しいことを言ってくれる。

お世辞や冗談などではないと分かる所が、こいつの良い一面だと俺は思う。


「あ、そうだ。
ねえリョウスケ、最近これ見かけたりしてない?」


フェイトが何かを思い出したのか、画面の操作を始める。

そして、話していた画面の右下に新たに画像が表示され緑色の石ころが映し出された。

宝石にしては表面がザラザラしていてカットも少なく、あまり綺麗な光を放っていない。


「なんだこれ、何かの原石か?」

「ほら、つい先日私が仕事中に発見したロストロギア。
本局へ搬送中に盗まれて、まだ犯人の足取りも掴めてないの」

「ああ、そう言えばおまえ、この前運よく見つけたとか言って喜んでいたな」

「もう……これが見つかったのって、すごい事だったんだよ」


興味のなさそうな俺の反応にフェイトがふくれている。

確かに機動六課解散前に言っていた気はするが、今まで完全に忘れていた。

事情はわからないが、随分と回収困難なものだったようだ。

それが盗まれてしまった悔しさも、フェイトの表情に表れている。


ロストロギアに視線を戻す。この名詞に、良い印象は無い。


あらゆる人々の執念や悪意が込められた別世界の出土品。

多くの人間に夢を抱かせながら、裏切ってきた遺物。

これも何の変哲も無い石だと思っていたが、そう言われると心なしか色や形が怪しく見えてくる。


「ちなみに、こいつはどういう代物なんだ」

「使うと莫大な魔力が身につくんだって。
でも、発動する時にかなり大きなエネルギーが出るらしいから、そういった観測はないし、まだ使ってはいないと思う」

「ほお、魔力がねえ……」

「……リョウスケ、今これ欲しいなって思ったでしょ?」

「そ、そんなことはないぞ?」

「口で否定しても顔に出てるよ。まあ、私も次元震の心配が無ければ魅力的だとは思うけどね」


同情を買わせたような気がしないでも無いが、若干呆れながらも俺に対して理解を示した。

フェイトにとっては危険物でしかなくとも、魔力量が無い俺にはどうにも興味が引かれる。

事実、この石を見て感じていたロストロギアとしての嫌悪感が無くなっている。

こんな方法で生まれついた力の差を縮めるなど、邪道でしかないというのに。


「それで、今は何処にあるか分からないのか」

「うん……これ、普段はただの石ころ同然で探知機を使っても見つけ出せないんだけど、
人間のリンカーコアに反応して、傍に人がいるだけでも発動しかけるの。発見できたのも本当に偶然だった。
それで、盗まれた時も最初は犯人に反応しててそのエネルギーを追っていたんだけど、途中で反応が消えて詰まっちゃって」


唯一の手がかりも消えてしまい、お手上げ状態だといった感じに話す。

どうやら、機械で簡単には探し出せないというのがこのロストロギアの一番厄介な特徴らしい。

あの時ジュエルシードを見つけるのにも骨が折れたが、これはそれ以上に厄介そうだ。


「その反応が消えた場所にはなかったのか」

「捜索したけど見つからなかった。多分、途中で機械とかで運んだんだと思う。
でも、さすがに人の力を全く使わずに世界の外へ運ぶことは出来ないだろうから、まだミッドのどこかにあるはず」

「じゃあ、今は犯人も足がつくから安易にロストロギアを使えずにいて、それで均衡を保ってるって状態か」

「そんなところだね」

「なんか大変そうだな。それを再度探し出すのは」

「そうだね、私もこの事件にいつまでも時間をかけるわけにはいかないから、今は別の捜査に就いてる。
でも、何年かかったとしてもいつか見つけ出したいって思ってる。
相手も簡単には使えないだろうけど、万が一のこともあるし」

「そうか。まあ仕事熱心なのは結構だが、あまり無理はするなよ」

「ありがと。そのうち一緒に休みが取れたら、みんなでどこか遊びに行きたいね」


人間に影響を与えるのなら、恐らくこれを使えば強力な人造魔導師もできるのだろう。

フェイトがここまで力を入れているのには、それも理由の一つではないかと思った。




ジュエルシードを探していたあの頃とは立場が全く違う。

あの時はどちらかといえば使う側だったが、今では管理をする側。

フェイトも執務官として、いくつもの管理世界の平和を守っている。

正義感の強い、あのマリアなら尊敬しそうなタイプだ。

そのうち、騎士から執務官になりたいと言い出す日も来るかもしれない。


――それに、あいつだったらこんな事件は放っておかない。


気の遠くなるような作業でも、マリアだったら平気で続けられる。

あいつは、俺なんかとは違うのだから。











一通りの仕事をこなした後、少し遅めの昼休みに入る。

売店で買ったパンとお茶を持って、教会で居合わせたはやてと一緒に外のベンチに腰掛けた。

時間帯がずれたせいもあるのか、人通りはあまり多くない。

食堂で食べるのも悪くは無いが、新しい生活の疲れからか人が少ない場所にいたい気分だった。


「教会の仕事はどう、うまくやっとる?」

「まあ、それなり。サボってると口うるさいのも何人かいるしな」

例を挙げると、主に我が娘と体育会系シスターが。

「あの子も本当は嬉しいんよ。これからは親子三人一緒にいられるんやから」

「そういうもんかね」

「そうや、良介もわかってるくせに」

「さて……ね」

そう言って見せるが、気持ちは理解できる。

俺だって、親には恵まれなかったんだ。

それに、親と過ごした期間が短かったはやてが言うことだ、その言葉に説得力はある。


「そういえば今日の新聞の一面見た?広域探査機のやつ」

「ああ、朝に読んだよ。人体に有害な放射線が出るから、まだ使えないんだったっけか」

「せや。あれ、アリサちゃんも出資してる企業が開発したんやって。
昨日アリサちゃんに会うてな、人間以外には影響がない性質やから無人世界周辺なら近いうちにも使えるし、
まだ時間はかかるけど、完成すれば世界の外でのロストロギアの捜索にかかる時間が大幅に短縮されるって言うてたよ」

「なら今の所の用途は無人世界のみか。
でも、それが完成した暁には管理局は大助かりだな」

「せやな。これで、世界の平和がもっと守れるようになったらええな」


ついでに捜査も楽になるから休暇が取りやすくなるかも、と笑いながら話す。

重い話を嫌う、はやてらしい切り替えしだと思った。



ロストロギアの対策は多くされている。

フェイトが行っている捜索にしてもそうだ。

万が一の事が起きるのを防ぐため、日々動き回っている。

それだけ、あれが人間にとって脅威なのだ。

多くの人々の生活や命が、一瞬で奪われてしまう悪夢。

それを、管理世界の住人は何度も見てきている。


従来のものとは比にならない程の広範囲を捜索する機械。


完成すれば世紀の発明となるのは間違いない。

その開発にアリサが絡んでいると考えると、主人としては少しばかり誇らしい気になれた。


「それはそうと……なあ良介、この本読んでくれへんかな?
ロストロギアの調査に使おうと思ってたんやけど、今うちの子達みんな他の部隊に行ってて読める人がおらへんのよ」


はやてがカバンから本を取り出し、俺に渡す。

差し出されたのは、古代ベルカ語で書かれた小さく薄い本。

表紙は黄ばんでいて、若干剥がれかけている。

どうやら、聖王教会へ来たのはこれの解読が目的らしい。

かなりの年季が入っているものの、字は潰れておらず読むのに支障は無いだろう。

仕事熱心だと尊敬しながら、何も言わずページをめくり、本を読み始める。

内容は昔の学者が書いた手記らしく、考古学でも学んでいなければ理解出来ない単語が目立つ。

隣では、はやてが俺が読んだ文を空間に映し出された画面にキーボードで打ち込んでいる。

時折パンを口に運びながら、器用に仕事と食事を並行させていた。



やがて、全てを読み終えて本を閉じる。

はやても文字を打ち終わり、データを保存して画面を閉じた。


「お疲れ様。おおきに、良介。
それにしても、こういう本が読めるようになるやなんて、良介も頑張ったやないか」

「まあ、一応あいつの夫だからな。」

「おあついなあ、惚気話やなんて」

「お前が振った話題だろうが」


古代ベルカ語――俺が持っている、数少ない知識。

カリムと結婚した以上、必要な能力は身に付けた。

そのためにあいつはもちろん、あの時代を生きたシグナム達にも色々と世話になった。

この生活が落ち着いたら、借りを返すことも考えないといけないな。

「ああそれと、その本なんやけど、無限書庫に保管してあるのを貸し出させてもらったんよ。
それで、何が書いてあるかはもう分かったから、時間がある時でええから返しておいてくれへんかな?」

「はあ?何で俺が」

「明日から用事があって、しばらく暇が取れへんのよ。
交通費あげるから…な、ええやろ?」


そう言って、財布からお金を取り出して俺の手に持たせた。

交通費としては、どう見ても額が多い。

どの交通機関を使ったとしても、ここから無限書庫までの往復などでは大幅に余る。

お小遣いをあげるからお使いに行ってきなさいという事か。

二十代後半の男をガキ扱いしやがって。


「……引き受けた」

「おおきにな、良介はホンマ頼りになるわ」


はやての申し訳程度の感謝とお世辞を受けながら了承した。

世の中プライドだけでは生きていけない。

それを十分理解している俺の選択は、賢いものだと信じたかった。










数日後、仕事の空いた時間を使って無限書庫にやってきた。

古代ベルカ語を学んでいる時は何度も足を運んだが、ここ数年はほとんど来ていない。

ユーノでもいるだろうか。



中に入り、保管してある本棚へと向かう。

そこで、ユーノではないが見知った顔の奴と出会った。


「やあ、アンタがここに来るなんて久しぶりだね。ユーノだったら学会に行っていないよ」


顔を合わせるや否や、親しげに話しかけられる。

ヴィヴィオより少し高い程度の背丈と、頭に生えた獣の耳。

アルフが本の整理をしていた。


「そうか、まあ…あいつに用は無いからいいや。はやてが借りていたこの本を返しに来たんだ」


返却口らしき場所も見当たらないので、アルフに本を渡す。

受け取ったアルフも、どういういきさつなのかは把握しているようで、本を見て納得している。


「あいよ。はやてが借りた本、確かに受け取った。
そうだ、もうすぐアタシも休憩に入れるから、よかったら少し話でもしないかい?」

「ああ、いいぞ。俺も今日は他に用も無いしな」





アルフが休憩時間に入り職員用の休憩室へ入った。

部外者の俺でもいいのかとは思ったが、後で司書長であるユーノの許可をもらえば大丈夫だからと言われ、一緒にいる。

「そういえば、アンタもやっと身を置いたんだってね」

「まあな、お陰で毎日が退屈だよ」

「よく言うよ。アタシの周りの中で一番最初に家庭を持ったっていうのにさ、
家族として本格的に始めるのに10年以上かかったじゃないか 」


姿は変われど、初めて出会ったあの時の勝気な振る舞いのままアルフが話す。

傍から見れば、幼女に所帯について指摘される成年。

体が小さいと今一つ迫力を感じないなどと失礼な事を考えながら、アルフを見つめてみる。

身長はもちろん、胸も無く、腕も細い。

あの時のガッチリとした体格のイメージが強い分、この姿だとより幼く見えた。


「わっ、リョウスケ!?」


好奇心で手を伸ばし、抱き上げてみた。やはり体の大きさ通り重くない。


――あいつよりも小さいな。


抱き上げられたアルフも最初は驚いていたものの、嫌がる様子は無かった。


「なんか、こうしてると娘ができたみたいだ」

「何言ってんだい、アンタには愛娘がいるだろ」

抱き上げられたアルフが、俺を見下ろしながら言った。

「いいんだよ、あいつは俺のこと嫌ってるから」

「なら、これを機に自分を改めてみたらどうだい?」

「己の怠惰を直して善良な人間として生きろってか?そんなの聞き飽きたぞ。
生憎だが俺は…」

「違うよ。そんなのアンタには無理だろ?
それに、あの子はアンタが精一杯生きている姿を見たいんだ。
だからアンタにしか出来ない事を見つけて、それを頑張ればいいのさ」


アルフがいとも簡単に言ってのけた。

俺にしか出来ない事……

そんなもの、ほとんど無いだろうけどな。



人並み以下の魔力に、中途半端な教会内での地位。

必死になって覚えた古代ベルカ語は、他にも使える人間がいる。

唯一の才能とも言える法術については、満足に扱うことすら出来ない。



掲げていたアルフをゆっくりと降ろす。

子供扱いしてやろうと思っていたが、自らの幼さを見抜かれてしまった気がした。


「まあ、アンタのことだから簡単にはいかないだろうけどさ、頑張っていればいつかは上手くやれるよ。
アタシたちも協力するからさ」


アルフなりの元気付けなのか、俺の体をポンポンと叩いた。

幼い体とのギャップが面白く、自然と口元が緩む。

ごく普通の励ましだが、その親しみの込められた気遣いが心に響いた。














まだ午前中だが、本日分の業務を終えて片付けに入る。

聖王教会での仕事も、最初の頃と比べると大分慣れて来た気がする。

机に向かい続けてもあまり疲れなくなったし、作業効率もある程度はよくなったと思う。

とりあえず、俺はまだ成長できていることに一安心。


「失礼します、ちゃんと業務をなさっているようですね。良介さんもやれば出来るじゃないですか」


部屋のドアが開き、シャッハが様子を見に来た。

俺が済ませた書類を見て、勉強に励む子供を褒めるように言いながら目を通している。


「なんだ、随分暇そうじゃないか」

「失敬な。私はさっきまで、毎年重要な儀式であるカリムの預言書のページ作成に付き合っていたのですよ」


シャッハが若干偉そうに反論した。

そう言われてみれば、そろそろカリムが預言書のページを作成する時期だ。

最近カリムが妙にソワソワしているとは思っていたが、これが原因だったのか。

あの事件が起こった直後だ、何が書かれるか気になるのも頷ける。


「それで、その重要な預言書は完成したのか?」

俺の問いに、シャッハの表情が曇った。

「それが……今回は作成が早すぎて上手くいかなかったんですよ。
ですので、今はページを祭壇に置いて魔力を蓄えています」

「……はぁ?」

「だから!今年は失敗したんです!誰にだってあるでしょう?そういうミスくらい」


辺りに響き渡る怒声。

普段は上手くのだが今回ばかりは特別だ、とでも言いたげな答え方。

胸を張って返事をしてくると思っていただけに、予想外の反応だった。


あのカリムが予言書の作成を失敗――


あいつでも失敗することがあるのだな、と感心する。

普段は何でも卒なくこなしている分、少し意外だった。

そうだよな、あいつだって完璧じゃないんだ。偶には上手くいかないこともあるだろう。


「じゃあ、まだ何が書かれていたかは分かっていないのか」

「はい。魔力が足りかったせいで、ページの文字が擦れていて読めなかったみたいですよ」

なら、まだあいつは今年の預言の内容を把握していないのか。

「騎士カリムも管理局にお見せする預言が失敗して、さぞかし落ち込んでいるでしょう……
良介さんはカリムの旦那なのですから、こういう時は預言書が完成したら部屋に持って行って、
カリムを優しく励ますなりしてあげてください。
大体、貴方はいつも気遣いが足りないからマリアとも……」

「あーわかったわかった。後でページを持って、あいつのところに行くよ」


こんなことで簡単にカリムが落ち込むとはとても考えられない。

だが、話が変わりかけてまたいつもの姑のような小言が始まりそうな手前、早めに了承しておく。

放っておくといつまでも続いてしまう、生憎だが折角の休み時間をこんなことに使いたくは無い。


……それにしても、シャッハもこのポジションが板についてきた気がする。

やはり、俺のような人間がカリムの配偶者では不安になるのも当然か。






シャッハが部屋から出て行き、思案する。

ここ最近、アルフの言っていた言葉が頭から離れない。


――俺にしか出来ない事を見つける。


クイントやギンガにしつこく更生しろと言われ続けていたからだろうか。

単純に善行をしろと言われただけなら、そんなものと鼻で笑ってやるのに。


カリムを優しく励ますなりしてあげてください、か。


それが今、俺に出来る事。

こんなに単純なものでいいのだろうか。

大切ではあるが、なんて地味。

魔導師なら、たった一人で世界を救える者もいるというのに。


俺に力があれば、もっと大きな事だって――










(ドアを開けてくださいですー)

執務室の向こうから念話が届いた。

ついさっき連絡して頼んだばかりだが、もう来てくれたらしい。

言われたとおりドアを開けると、ミヤがメモリを抱ながら浮いていた。

フワフワと体が上下に動き、それにつられて長い空色の髪がなびいている。


「リョウスケが言っていた捜査のデータ、持って来たですよ」


ミヤが抱えていたメモリを俺に渡した。

手の平に収まる程度の小さな物でも、こいつが運ぶと対比で重労働に見えてくる。


「悪いな、急に呼び出して」

「仕事の頼みだったらいつでも歓迎ですよ。
リョウスケが真面目な人になってくれるのなら、ミヤも嬉しいです」


嫌な顔一つせずに、若干幼さが残った表裏の無い素直な笑顔を向けてくる。

それは今の俺にとって眩しくもあり、以前までを振り返ると微妙に背徳を感じつつあった。


「やっぱりミヤがいてくれると助かるなあ、ほんと」

「えへへ、当然です。ミヤはリョウスケのパートナーなんですから」

棒読み気味の台詞ではあったものの、ミヤは真に受けている。

「なら、今少しばかり時間あるか」

「時間ならあるですけど、他にもなにか用ですか?」

ミヤが首をかしげる。その子供のような仕草が、妙に可愛らしいと感じた。

「ちょっとばかり魔法の練習に付き合ってくれないか。
法術を少しでも扱えるようになりたいと思ってさ」

「ホントですか?いい心がけです!もちろんお手伝いするですよ」


俺の頼みを快く引き受け、急に張り切り出した。

普段は魔法の練習などはあまりしない分、嬉しそうにはしゃぎながら練習メニューを構想している。

これならおだてる必要は無かったか。

けれど、こちらとしてもやる気でいてくれるのはありがたい。

こういう時にミヤの協力は絶対だ、俺一人では魔法の行使は出来ないからな。







魔法について一通り終わった後、ミヤと一緒に食事に出掛けた。

近所ではかなり値段が高いことで有名な高級レストランに行き、あいつが満足するまで奢ってやった。


……あのチビ、あの中で特に高いものばかり頼みやがって。


おまけに人間サイズの体で食べるのは反則だぞ。

おかげで、はやてからもらった金がほとんど無くなってしまった。

八神家の策略に踊らされた気もするが、深く考えるのはやめておく。

もしそうだとしても、俺が惨めになるだけだ。

小銭を稼ぎにでも行きたいが、今となっては簡単には暇が取れない分、街へ似顔絵を描きに出掛けるのも難しい。

以前までの気ままな生活が恋しく思う時もあるが、これも時の流れか。











適度に時間が経った頃、祭壇のある部屋に行き、鍵を開けて中に入る。

宗教などには興味がないこともあり、ここに来るのも久しぶりだ。

神も仏も信じていない俺が、聖王なんぞを崇められるわけがない。

そんな男が教会騎士であるカリムの夫になれたのも、宗教としての制約が緩い聖王教ならではかもしれない。


部屋の奥で、何かが光っている。


それは周囲を薄暗く照らし、どこか神秘的な雰囲気を生み出していた。

近づいて確認すると、シャッハの言っていた通り、祭壇の上に失敗したカリムの預言書が置かれていた。

二つの月の魔力がうまく合わなかったのか、まだ所々字が薄い。

月からの魔力を受けて完成するまで、ここに置いているのだろう。

ページを手に取る。いつもはカリムが一番最初に確認している、管理局の上層部も目を通す重要物。

何が書かれているかは多少見づらいものの、読むことは出来そうだ。


……一足先に見てやるか。


どれどれ――


「―――!!」







俺たちが住んでいる教会の居住区にある、カリムの部屋に来た。

もう日は落ちている、カリムがいるとしたらここが一番見込みが高い。

それに、ここなら誰にも邪魔をされることは無い、二人きりで話すにも丁度いい場所だ。

預言を手に、ノックをして部屋に入る。


「あら、アナタ。どうかされましたか?」

「あ、お父様」

マリアが俺を見た。

「何だ、マリアもここにいたのか」

「何だってなんですか?私が居るのがおかしいですか」

「ああいや、そうじゃないんだ。お前は自分の部屋にいると思ってたんでな」


マリアの文句を適当に流しながら カリムを見る。

やはりというべきか、落ち込んでいるそぶりは無くいつも通りのカリムだった。

この様子なら、気遣ってやる必要もあるまい。


――だが、部屋にマリアもいるのは予想外だった。


今ここで渡せば、こいつにも預言の内容を知られる。


他の場所で二人きりの時に渡すべきか。


いや、無駄だ。この教会内に身を置いている以上、全てが終わるまで隠し通すことは不可能だ。

いずれは知られてしまうのなら、今ここで渡しても関係ないか。

考えている事を顔に出さないようにしながら、普段通り話した。


「お前が作った預言書が完成したから持ってきたんだ。ほら、今年のページ」

「ありがとうございます。今年はページを作成する時期が少し早かったのか、うまくいかなかったんですよ。
それで、何が書かれているかはもうご覧になられましたか?」

「ああ、お前も見てみな」


カリムが予言書を受け取り、目を落とす。

マリアも背伸びをして覗き込んでいる。古代ベルカ語など読めないのに。

母親と同じ物を見たい年頃なのだろうか。


「……お母様?」


マリアには、ページに何が書かれているかは分かっていない。

けれども、何か重大な事が書いてあるというのは察したようだ。


カリムのページを持つ手が震えている。


「……星にまぎれし破滅を導く古の形見、傍らの彼の翼眠った世界に過ぎし力を与える。
その地は崩れ出し、やがて力は溢れ遂には滅びぬ」

「あ…あの、それは一体……」

「……このミッドチルダが、ロストロギアの力を受けて滅びるということ」

「えっ!?そ、それって」

「アナタ、この預言が当たったら……私たちの世界は、ミッドチルダは……」


カリムの震えは止まらない。

管理局の精鋭たちが守り抜いた平和が、再び崩れ去ろうとしている。

今度は管理局ではなく、この世界そのものが崩壊する預言。

これの信頼性は、昨年の事件で嫌というほど思い知らされている。


「落ち着け、お前の預言が映し出す未来は最低でも半年先だ。まだ猶予はあるだろ?」


肩を掴み、カリムをなだめる。

そして、なんとか落ち着きを取り戻した。


「半年……そうですね、今のうちに対策を立てないといけませんね」


カリムが自らの気を落ち着かせるように言った。


――そう、半年。


預言が現実になるまで、まだ先だ。すぐに起きるわけじゃない。

それが、俺には逆にもどかしかった。


「まず、管理局の上層部にこの預言の事を連絡しましょう。

――また、皆さんの力をお借りしなければなりませんね」



昨年の事件の例もある。

どの部隊も、この預言の内容を見過ごすことは出来ないはずだ。







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