第一話「Strange Meeting」










これが二人の出会い。

少年との出会いは最悪でした。

しかし、少女は少年に興味を持ちます。

果たして少女達にこれから何が待ち構えるのでしょうか?











「何、アレ……」



少年が刀を振りかざし、男の胸に突き刺す。

男は灰になり、風に舞って散った。



「何なのよ……アイツ……」



少年は空を見上げている。

詰まらなそうに。

何かを思い出すように。



「何で……吸血鬼をあんなに簡単に殺せるのよ!?」



トモコはそう言うと、草むらから飛び出した。

少女に気付くと少年は此方に振り向く。

少年と目が合う。

黒き瞳。

その瞳は何よりも澄んでいた。

闇よりも深き漆黒。

東洋人の血を引くトモコも同じ色の瞳だが、こんなに綺麗な瞳は見たことがない。

言葉が出てこない。

魅入られてしまったのだ。

少年が持つ魔力に。

そんなトモコに向かい少年が口を開く。



「夜中の独り歩きは危険ですよ」



その言葉を聞き、トモコは少年に近づき
――――殴った。



「……痛いです。何するんですか?」

「何するじゃないわよ! 何であんなに簡単に吸血鬼が倒せるの!? アンタ吸血鬼でしょ、何で人助けをするの!? というかどこの血統、アンタ!?」



トモコの言葉に少年は困惑した表情を見せる。

オロオロとし視線が定まっていない。

トモコの怒りは高ぶる。

もう一発頭を殴り、今度はローキックも食らわす。

それをまともに食らった少年は膝が折れ、地面に片膝を着き、頭と膝を抱える。



「だ、だから何で?」

「うるさい! アンタがムカつくからよ!!」

「そんな滅茶苦茶な……」

「うるさい、黙れ! そして答えなさい!! アンタは何者!?」

「何者と言われても……この通りですよ?」



少年は立ち上がり、トモコに背中を向ける。

そして背中にあるリュックサックを指差した。



「ほら、これです」

「……何?」

「だからこれですって」

「それが何だって言うのよ!」



また殴る。

少年は頭を抱えてうずくまってしまった。

呻き声まで漏らしている。

相当痛かったらしい。

それでも少年は続ける。



「僕は、ただの旅行者です……」



少年は何が何でもとぼけるつもりらしい。

それならと、トモコは愛銃
――コルト・ベスト・ポケット――のスライドを引いた。

これには流石に少年の表情は強張る。

勝ち誇った表情をトモコは見せた。



「この銃の弾頭は銀。吸血鬼が食らったら駄目よねぇ? 何たって最大の弱点なんだから」

「だから吸血鬼ではないと何度言ったら信じてくれるんですか?」

「信じられないわよ、馬鹿!」

「あっ、馬鹿って言った! 馬鹿って言う人が馬鹿なんですよ!!」
            
ファッキンサッカー
「なんですって!? この腐れ吸血鬼!!」

「だから僕は吸血鬼じゃない!!」



さっきまでの緊張感はどこへやら。

二人の無意味な言い争いは続く。



「もう頭に来た!!」



そう言うなり、トモコは銃の照準を定める。

撃つ気だ。

少年の顔は見る見る青くなる。



「ま、待って下さい! 僕は吸血鬼じゃありません。人間を殺したら罪になりますよ? 刑務所に入れられちゃいますよ? 下手したら死刑ですよ!?」

「ふふん、そんなことは分かっているわよ」



少女の言葉に少年は安堵のため息を吐いた。

どうやら分かってくれたらしい。

随分遠回りをしてしまったが、分かってくれた。

もしかしたら少年は、対人関係でも方向音痴なのだろうか?

少年が少女に分かってくれたことに対する礼を言おうとしたところ、



「アンタは吸血鬼。アタシは吸血鬼ハンター。問題なし!」

「……へ?」



轟く銃声。

彼女の銃からは硝煙が溢れ出ている。

地面に転がる薬莢。

背中から倒れる少年。

少年に背を向け、トモコは勝ち誇った笑みを浮かべた。

笑みは哄笑へと変わり、口は鋭角につり上がる。

そして勝ち名乗りを上げた。



「アタシは邪悪な吸血鬼に勝った! アタシは救世主なのよ! あっははははははははは!!」



その時、少女の後ろでもぞもぞと動く影があった。

倒れていた影は起き上がり、尻を叩き汚れを落とす。

影はこそこそとその場を離れる。

ガリッ、と何かを踏んでしまった。

慌てる影だが、少女は気付かない。

それに胸をなでおろし、影はその場から姿を消した。

暫く高笑いをし気が済んだのか、少女は少年に振り替える。



「……あれ?」



少年が倒れていた場所には誰も居ない。

辺りを見渡してみても誰も居なく、トモコ独りだけだ。

首を傾げるが、やがて合点がいく。

逃げたのだ。

死んだふりをし、トモコの前から。

肩が小刻みに震える。


           
ファッキン・サッカー
「舐めた真似したわね……腐れ吸血鬼!」




















少年はトモコが後ろを向いた瞬間を見計らい、逃げ出していた。

逃げに逃げ、丁度良い木の陰に身を潜める。



「ここまでくれば……大丈夫かな?」



そう言うと少年は木に背中を預け、ため息を吐く。

何故自分が狙われなければならないのだろう?

何か悪いことをしただろうか?

それとも彼女が特別なのだろうか?

左手の人差し指が光る。

キラリと、月光を浴び銀の指輪が微かに光っていた。

拳を握る。



「エルザ様、あなたは僕が必ず見つけ出します」



少年はため息を吐いた。

彼女を探してから何年も経つが、一向に影さえ見当たらない。

本当に、どこに居るのやら。



(もしかしたら、もう既に……)



少年は頭を振り、今頭を過ぎったことを振り払った。

そうすることで少し心が落ちついたのか、顔色がよくなる。



「まぁ、僕がいくら心配したってしょうがないよね」



苦笑する。

まったく、あの人はいつもそうだ。

他人に迷惑をかけることを何とも感じていない。

少年は彼女のその性格に迷惑していたが、そこに惹かれたのも事実だ。

彼女は風のように生きていた。

あのように生きたいと、何度思っただろう。

だが、風のように去るのだけは止めて欲しいものだ。



「あっ、そうだ」



ポケットに手を入れあるものを取り出す。

薬莢、トモコが撃ったものだ。

置いてくればいいものを何となく持って来てしまった。

踏んだ時は慌てたが、気付かれなくて本当によかった。

薬莢をよく見ると、何か書かれていることに気付く。

『An eternal suffering to the vampire and an infinite death』



「吸血鬼に永劫の苦しみを、無限の死を、か。そんなに嫌いなのかな?」

「ええ、大嫌いよ」



背中に嫌な汗をかく。

薬莢から目を外し声のした方向に視線をやると、トモコが腕を組んで立っていた。

その表情は般若のようだ。



「いい度胸ね。こんな所に居るなんて」



言葉が出てこない。

唇は乾き、喉はカラカラだ。

それを我慢し声を絞り出す。



「な、何故ここが……?」

「ふふふ、人を舐めるのが好きみたいねぇ、アンタ」



怖い。

生まれてきてこんなに恐怖を感じたことがあっただろうか?

……あったかもしれないが、こんな少女には感じたことがない。

手から薬莢が零れ落ち、キィンと鳴り響く。

その音ではっとした。

逃げなければ命がない。

その考えにいたった瞬間、少年は動き出した。



――――はぐぁ!?」



目の前に火花が散る。

後頭部を殴られたのだ。

銃のグリップで。

ジンジンと殴られた箇所が熱を帯びる。

その場にうずくまり、頭を押さえる少年。

トモコは少年のその姿に嘆息すると馬鹿馬鹿しそうに告げる。



「アンタねぇ、アタシから逃げるんならもっと遠く逃げなさい!」

「…………?」



意味が分からない。

少年は必死に逃げた筈だ。

それが意味するところは……まさか。



「……つかぬことを聞きますが、此処はどこですか?」

「アンタを撃った場所から十メートルも離れてないわよっ」



やっぱり。

また迷ったのだ。

この方向音痴はどうにかならないのだろうか?

自分に絶望する。

少年はため息を吐いた。



「まぁ、最初に会った時から迷ってたみたいだけど、アンタ異常よ? こんな距離で迷うなんて」

「……言わないでください。自分が一番よく知っていますから……」



ため息を吐く。

少女はイライラしながら少年を見ている。

またため息。

少女が怒りの沸点を超えた。



「だぁっ! うじうじするな! それでもアンタ吸血鬼!? もっと堂々としなさいよ!!」

「……吸血鬼じゃないと何度も言っているでしょ? うじうじしたっていいじゃないですか。そんな気分もありますよ。……はぁ」

「黙れ! ため息を吐くな!」

「あだっ! 一々殴らなくてもいいでしょ!? 全く短気な人だな!!」

「アンタが怒らすからでしょ!?」



無意味な言い争いが続く。

フクロウが馬鹿にするように一鳴きする。

と、その時
――――



――――っ。……夜が、開けた……」

「……みたいですね」

「みたいですねじゃないわよ! 吸血鬼は日の光を浴びたら……」

「浴びたら、どうなるんです?」

「そんなの当たり前でしょ!? 体が灰に……って、えっ……?」

「僕は灰になっていますか?」



少年の言うとおりだった。

日の光を浴びても、少年はどこも灰になどなってはいない。

むしろ輝いて見えた。

黒い髪。

黒い瞳。

黒い服装。

闇の色を纏っているのにもかかわらず、輝いている。



「だって……弾丸を受けても死ななかったのに……」

「ああ、当たってなかったんですよ。逸れていましたよ、弾」



呆気にとられる少女。

今までの攻防は何だったのだ?



(それより、アタシの勘っていったい……)



項垂れるトモコ。

その姿を見て苦笑すると、少年はあることを思い出した。



「そういえば、さっきからトモコさんは僕のことを『アンタ』って言ってますけど、僕の名前はシュウジです。
 榊原シュウジ。よろしくお願いしますね」



手を差し出す。

トモコは呆然としながらも、手を差し出した。

シュウジは苦笑しながらその手を掴み、握手をした。

握手を交わしながら、トモコは思う。

不思議な子だ。

夜の世界に生きているように見えるのに、昼の世界を生きている。

自分と同じように日の当たる世界を。

それに歳はそんなに変わらないように見えるのに、大人っぽく見える。

……いや、気のせいだ。

大人は迷子になってもあんなにうろたえない。

独りそう納得するトモコ。

でも、この子なら、もしかしたら……。

トモコは少年
――シュウジ――の瞳を正面から見つめ、



「アタシはトモコ・J・マックスウェル。これからよろしくね、シュウジ!」

「はい、トモコさん。……これから?」



トモコは不敵に笑った。

嫌な予感がする。



「アンタは吸血鬼を一撃で仕留められる力を持つ。そのアンタとアタシが手を組めば最強よ!」

「だから吸血鬼なんていないって……」

「じゃあ、アンタが倒したアイツは何なのよ。他に説明できるっていうの?」



言葉に詰まるシュウジ。

頭を必死に回転させ、シグムントの説明を考える。



「あれは……夢ですよ、そう夢です」

「ふざけるな!」

「あだっ! だから殴らないで下さいよぉ。銃のグリップで殴ったりして、下手したら死にますよ?」

「大丈夫。加減は出来るから」

「出来ていない気が……ああ、なんでもありませんよ。何も言っていません。だから……銃を下ろして下さい」

「ふん、分かればいいのよ。……っで? あれは吸血鬼よね? どうやって殺したの? アンタは何者?」



仕方ない。

こうなったら白状した方がいいだろう。

少年はため息を一つ吐き、静かに言う。



「僕は
――――あなたと同業者ですよ」




















 あとがき

プロローグに引き続き読んで下さりありがとうございます、シエンです。

何故、僕が突然BLACK BLOOD BROTHERS(略してBBB)のSSを書き始めたかというと、
何度もBBBの二次創作を探したのですが、どう検索しても出て来なかったからです。

なら自分で書いた方が早いかな? と思い書き始めました。

短絡的思考ですね、馬鹿です。

ですがこれを機に、知らなかったという方が少しでもBBBに興味を持ってくれたのなら幸いです。

では、また次回。





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